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過去と現在と幻想と現実と ①
俺は昨夜、最近付き合い始めたばかりの恋人と別れた。
*****
俺の性的嗜好は同性で、つまりは男しか好きにならない。
昔は自分の心が反応するのが同性ばかりで、その理由が分からず戸惑っていた。
ある時中学のひとつ上の男の先輩から告白された。先輩はテニス部のキャプテンをしていて、密かに憧れていた人だった。
それまではこの『憧れ』もただの『憧れ』だと思っていたけど、先輩に告白されてこれが『恋』で、自分は同性が好きなんだって気がついた。
俺は先輩にもっともっと好きになってもらえるように自分を殺して頑張った。
幸せでこそばゆい初めての恋。
だけど、ある日見てしまったんだ。
みんなが帰ってしまった夕暮れの部室で、先輩が俺とは違う誰かとキスをしていた。今年入部したばかりの男子生徒だった。
最初は意味が分からなかった。
先輩の事を信じたかったし俺には先輩しかいなかったから、先輩に俺の他にも誰かがいるなんて信じたくなかった。
見ている俺に気づかず段々と深くなっていくキス。
制服のボタンが外されていく――――。
目を閉じ耳を塞いでみても二人の息遣いが煩く響く。
もうそれ以上ふたりの傍にいたくなくて、ふたりの事を見ていたくなくて、俺は走って逃げた。
先輩から、後輩から、――惨めな自分から。
俺と先輩はまだ唇を合わせるところまでしかしていない。
初めての恋に、それだけでいっぱいいっぱいだったから。
先輩もそれでいいって言ってくれていた。
そんな先輩だったからいつかは――って思ってた。
恋ってもっとふわふわして素敵なものだと思っていた。
先輩といるといつもそうだったから。
なのに今の俺の胸にあるのはドロドロとした醜い感情で。
自分を殺して付き合っていたのが悪かったのか、それとも最初から俺の事なんてただの遊びだったのか。
あいつみたいにもっと先まで許していたら――。
ぶんぶんと頭を振って浮かんだ考えを打ち消す。
悔しくて悲しくて辛くて痛いのに、泣く事もできない。
俺はその答えを先輩に確認する事なくテニス部も辞め、先輩との連絡を一切絶った。
『さようなら初恋』
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