1 右手の秘密

2/14
前へ
/51ページ
次へ
「よし、終了だ」 僕はそう宣言して、手術室を後にする。 今日の手術は血管を巻き込んだ腫瘍の摘出術。少しでも血管を傷つけたら、大出血を起こして患者は死んでいただろう。 でも大丈夫。 そんな事は起きない。 だって 僕、清水和平(しみずわへい)は絶対に手術を失敗しないから。 勘違いしてはいけない。 どこかのテレビドラマの女医さんとは違って、僕がスゴイのではないよ。 僕には五人の強力な仲間がいる。 そのお陰で、僕は絶対に手術を失敗しないんだ。 「清水先生、お疲れ様でした。今日も完璧な手術(オペ)でしたね」 そう労ってくれたのは、麻酔科医の小林先生。僕の大切なチームの一員であり、もう三年間くらい僕のチームで活躍してくれている信頼深き仲間だ。そして、とても綺麗で聡明な小林先生に僕はずっと恋心を寄せている。今のところ、一ミリも距離は縮まってないんだけど。 「清水先生、小林先生、今日は食堂ですか?」 そう訊いてきたのは、看護師の中村さん。彼女もやはり、僕の大切なチームの一員。とても優秀で、僕ら医者の先回りをして動いてくれるので、医者からの信頼も厚い。 僕の手術は、彼女達なしでは成り立たないのは事実だ。しかし、このニ人はさっき話した五人の中には入っていない。 「うん、今日は食堂にしようと思ってるよ」 「私もそうしようかな」 僕の勤める病院の職員食堂は、管理栄養士さん達が工夫してヘルシーだけどがっつり食べられる料理が並んでいる。価格も四百円とリーズナブルなため、昼時は満席になることも多いんだ。 今は十四時過ぎだから、さすがにもう空いているだろう。 「今日の手術も大活躍だったね」 「うん、"プレシ"はいつも通り正確無比だったけれど、今日は"タック"が頑張っていたよね」 サラダうどん、かやくごはんセットを食べながら、小林先生と中村さんが僕に話しかけてきた。 「そうだね。今日はニ人の動きが良かったから、"ボイス"の出番がなかったね。最後に"ヒア"がバイタルチェックしてくれるから安心だったけれど」
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加