第九章 氷原に咲く春告げの花

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 「すっかり葉桜ですね……」  ソメイヨシノなので、サクランボは実らないと聞いた。  残念だけれど、もしサクランボができたら盗まれそうだし、実を取るために木を傷つけそうだ。  花だけで良かったのかもしれない。  「そうだな。でも、来年、また一緒に見られる」  「そうですね」  これからは毎年、恭貴と桜の花を見ることができる。  想像すると、すごく幸せな気持ちになった。  すっかり落ちついて正面玄関に来ると、引っ越しのトラックが()まっていた。  新しい住民が入るようだ。  このマンションは戸数が多いので、どこの部屋かは分からない。  男性が引っ越し会社の人と話しながらエントランスに(あらわ)れて、二人から驚きの声が出た。  「あ……」
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