第一章 冷血と呼ばれる男性(ひと)

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 恥ずかしくて(つら)かったけれど、同じミスをした彼女が悪い。だから、叱責(しっせき)は仕方ないと思った。  三度目はなかった。  パソコンの端に重要項目のメモを貼りつけて、忘れない工夫をしたのだ。効果があって、ミスはほとんどなくなった。  そんな彼女に、恭貴は一度褒めてきた。  二年目に入ったばかりの頃だった。祝日の関係で、書類の締めが普段よりも二日早く来るので残業になった時だ。  なんとかある程度完成させて印刷していると、声を掛けられた。予想してなかった円佳は、びくりと肩を震わせた。  「幽霊を見るような顔をしているぞ」  恭貴の言葉に円佳は真っ赤になった。上司に対して失礼すぎる態度だ。  「申し訳ございません。急で驚いてしまいまして……」  声が小さくなる彼女に、恭貴は普段とは違って辛辣(しんらつ)ではなかった。  「確かに突然だったからな。君が最後だから気になってね」
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