第九章 氷原に咲く春告げの花

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 ***  恭貴と瑛都の関係が表面上とはいっても落ちついたので、営業部も順調に動くようになった。  毎日が平穏に流れると、円佳の動揺も消えつつあった。  未遂で済んだことはやっぱり大きかった。  もし、未遂で済まなかったら、瑛都が望んだように円佳は恭貴から去っただろう。どれだけ引き留められたとしても……  だから、最悪の状況にならなかったという事実は、円佳の決断に大きく影響したわけだ。  落ちつきを取り戻し始めた頃に梅雨の季節が訪れた。それほど雨が多いわけではないけれど、傘が手放せない時季だ。  連休が終わっても恭貴は円佳に泊まるように言ってきて、家が二か所あるような状態になっていた。  「週末だけにしませんか?」  なんのことか分かったようで、恭貴は不機嫌そうな表情だ。  「僕といるのは気づまり?」
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