第九章 氷原に咲く春告げの花

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 「全然そんなことないです。恭貴さんといると落ちついて幸せです」  交際して半年()つけれど、円佳の想いはまったく変わっていない。それどころか、もっと強くなったと思えた。  円佳が自分といて幸せだと聞いた恭貴の表情が、少し(やわ)らいだ。  「それなら、どうして週末だけにするんだ?」  「まだ交際なんですから、けじめはつけないと……週末だけでも満足ですから」  真面目な言葉に、恭貴が苦笑しながら頷いている。  「そういう、きちんとしたところが円佳だよな。  桃香(ももか)は寂しいと、付き合って早々に暮らし始めんだ。だから、つい……」  恭貴が、桃香と交際していた時のことを話すのは初めてだ。  彼女が甘えるタイプとは意外だった。恭貴もそうだけれど、仕事で見せる姿だけで性格は分からないらしい。  柚稀(ゆずき)が教えてくれた桃香は、仕事の手際が良くて頼りになるしっかりした社員だったからだ。  派遣先と中村(なかむら)事務総合商事は延長で合意したと聞いた。人事部は、正社員登用に向けての話し合いをしているらしい。認められてほしいと思った。
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