第九章 氷原に咲く春告げの花

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 「円佳、結婚しよう。  付き合って一年()ってないから、結婚は早いかもしれない。だから、今は婚約だけでもいい。  僕は円佳と人生を送りたい。もう離れたくないんだ」  「え……」  彼は真っ直ぐに円佳を見てきた。驚きはあるけれど、ためらいは一瞬だった。  何もない土曜日のプロポーズ。  面白みもなくてサプライズもないけれど、彼からの求婚が一番の驚きだから、円佳に不満は全然なかった。  秘かに想いを寄せていた男性が、自分を一生の相手に選んでくれる……瞳が(うる)んだ。  「はい……私も恭貴さんと結婚したいです。ずっと一緒にいたいです」  円佳からの返事を聞いた恭貴の瞳も潤んだのが分かった。  結婚を決めた夜、二人は久しぶりに身体を重ねた。  あの日を忘れて前を進むための夜だった……
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