第九章 氷原に咲く春告げの花

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 ***  翌日、恭貴は婚約指輪について()いてきたけれど、円佳は必要ないと言った。  「なくて大丈夫です。今つけてる指輪がありますから」  指輪をする習慣がなかったので、今でも見ると少し赤くなるくらい。恭貴とお揃いだから、一人だけの指輪は必要ないと思った。  円佳の答えは分かっていたようで、恭貴は苦笑した。  「それなら、その費用は将来のために貯めておくか」  「それがいいです。節約しないと」  実際に結婚するのはまだ先だけれど、生活は現実でお金がかかる。余計な出費は控えたかった。  「節約するなら、一緒に暮らせばいい。家賃が一軒分になるから」  その言葉に今度は賛成した。結婚が具体的になってきたからだと思う。  「分かりました。引っ越し屋さんに見積りもらわないと駄目ですね。リサイクル屋さんにも連絡ですか」  家具家電はほとんど必要なくなる。  「分かった。明日にでも手配しよう」  同居を強く望んでいるのは恭貴だから、相当早く引っ越すことになりそうだと思った。
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