第九章 氷原に咲く春告げの花

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 ***  月曜日のロッカールームで、円佳は柚稀(ゆずき)志信(しのぶ)に声を掛けた。  「今日、仕事終わったら時間ある?」  二人は揃って頷いたけれど、理由を知りたそうだった。  「暇だけど、なんかあった?」  「うん……報告あるんだけど……」  ここで気づいたらしい志信が確認してきた。  「まさか、結婚決まったとか」  言葉につまった。  否定できないし、この場で認めると後で話す必要はない。あいまいな表情になると、二人はいたずらに視線を合わせて円佳を追求してきた。  「ほんとに結婚?  夕方まで待ってられないから、早く教えて」  柚稀の声を聞いた他の社員が注目している……上手くかわせなかった円佳は小さく頷いた。
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