第九章 氷原に咲く春告げの花

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 「婚約したの。もう少ししたら一緒に暮らすんだ……」  恭貴と交際してから、女性社員の歓声が中村事務総合商事に響くことが増えた気がする。  今朝も当たり前のように、ロッカールームは大騒ぎになった。  その半月後、円佳は恭貴のマンションに引っ越して、本格的な同居を開始した。  あっという間に広まった情報を聞いた桃香からは祝福を受けて、瑛都は表面上は普段どおりだったけれど、どこかショックを受けた様子があった。  彼が、本気で円佳を好きになったのかは分からない。  でも、桃香の時とは違って、恭貴が大切にしている女性を奪えなかったのは事実。  敵対心は今も持っているようだから悔しいのだろう。  それでも業務に専念する姿は変わらない。  今の時代、結婚したとしても一生続くという保証はない。  実際、恭貴は一度失敗している。妻を瑛都に奪われて……  瑛都も分かっているから、(あきら)めてないのかもしれない。
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