第九章 氷原に咲く春告げの花

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 ***  恭貴の運転で円佳の実家に向かった。  到着してチャイムを鳴らす。  合鍵を持っているけれど今回は使えない。鳴らすと、母親がすぐに出てきた。  父親と兄はリビングで待っているようだ。  「待ってたわ」  娘に簡単に声を掛けると母親は、恭貴と彼の両親に向いて頭を下げた。  「ようこそ、いらっしゃいました。円佳の母です。  夫と息子は中で待ってますから、どうぞお入りください」  リビングにいた父親と兄は恭貴たちを見ると緊張したようで、いつもと違って少し堅い声で迎えてきた。  「お待ちしておりました。どうぞ、お座りください」  普段から温厚な父親だけれど、今日はさらに礼儀正しい。  恭貴は両親を先に座らせてから円佳と並んで、父親の向かいに腰を下ろした。
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