第九章 氷原に咲く春告げの花

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 蓮見(はすみ)(じゅん)だった。  「あの……蓮見さんはどうして?」  このマンションは、霧山(きりやま)商事に勤める人間が入るレベルではない。不思議だった。  恭貴も同じようで、黙って彼の言葉を待っている。  「ああ……ここ、遠縁が借りてるんです。そこを又借りです」  意外だった。  確かにセレブの住むようなマンションではないけれど、それなりのレベル。又貸しが可能とは思わなかった。  「失礼だが、このマンション、又貸しは禁止のはずだが」  伏せて引っ越したと思ったのだろう。恭貴の声が少し厳しい。聞く潤が苦笑した。  「そうでしたね。特例だと言われてました。  すいませんが、他の住民には内密に願います」  特例……彼は想像よりも高い立場の人間なのだろうか……円佳が見つめると、潤は困った表情になった。
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