第一章 冷血と呼ばれる男性(ひと)

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 でも、細かい作業なので向き不向きがある。  他の二人の社員のうち、柚稀は円佳ほどではないけれど、数か月で業務を(おぼ)えた。  それに対して先輩の女性社員は、数字を一つ一つ確認する作業は相当苦手そうだった。  気づいた円佳は、それとなく先輩をフォローするようになった。  彼女はそれが分かると、あからさまに手抜きをし始めた。  円佳は黙って仕事をしたけれど、同時に配属された柚稀は相当苛立(いらだ)ったようで、時折、彼女と不穏当な会話を交わしていた。  「ここまで後輩に押しつけて、何も感じないんですか」  柚稀は勝気だったので、円佳と違って、はっきりと不満をぶつけた。でも、彼女は自己弁護が上手だった。  「指導の一環よ。量をこなさないと覚えないでしょ?」  円佳にしても、さすがに業務量の(かたよ)りがひどいと思った。でも、人事部に言うほどでもない。  (あきら)めの気持ちで頑張っていた。
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