第一章 冷血と呼ばれる男性(ひと)

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 でも、恭貴は冷たい声で、彼女の言葉を切って捨てた。  「いや、必要ない。君の自己弁護を聞くほど私は暇ではない。  私は通告をしているのであって、君と面談してるわけではないから、これ以上の会話は時間の無駄だ。  言いたいことがあるなら、人事部で話すといい」  泣きそうな先輩を完全に放置して、彼は別の社員へ声を掛けていた。  人事異動の件ではないようで、書類を見ながら会話を交わしている。  恭貴の切り替えの早さに、円佳は少しショックを受けた。  先輩は涙目で恭貴の後ろ姿を(にら)みつけると、嫌そうに人事部へと向かっていった。  柚希が先輩を視線で追って、完全に見えなくなると少し意地悪そうに笑った。  「だから、真面目に仕事してほしいって言ってたのに。  自業自得だね」  仕方ないとは円佳も思ったけれど、さすがに言葉にはできなかった。
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