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「多分、産まれたよ」
「そう、ちゃんと、動いてる?」
「うん、でもよくわからない」
「あぁ、産み付けたときに、麻酔も入ってるから、かな。だから、痛くはない、はず」
それからすっかり窓の外が暗くなった頃、俺の側面がつぷつぷ動き、食い破られて小さな穴があいて、なにかが出てくる感触がした。
それはシーツの上をふたふたと歩き回っている。
「つ」
「大丈夫?」
「すぐ、麻酔が効くから、平気。死ぬと、腐るか、ら、生きたままに、する、のよ」
そういえばジガバチは死なないように重要な部分を残してすこしずつ食べるんだっけ。そんなことを聞いたことがある。
俺と彼女はちょっとずつ足元からかけていく。できれば一緒に死ねますように。それはなんだかロマンティックで。
でもしばらく日がたって、外側の彼女の心は俺の前からいなくなってしまった。体は生きてはいるけど、俺の目の前の瞳は何も映していない。もともとカサカサでご飯も食べていないのだから、衰弱してしまったのかも。飴のエネルギーが切れたのかもしれない。少し悲しい。話し相手が減った。
頑張って糸を飛ばした結果、彼女の顔にヴェールのように糸が降り積もった。なんとなく、満足した。
俺は俺の皮を齧りながらまだ意識を保っている。
「他には何に注意したらいい?」
「そうだね。四則計算はもう大丈夫そうだから、あとは常識かなぁ」
「常識」
俺の背中がぱりぱり咀嚼される音がする。なんだかくすぐったい。
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