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「あの」
頑張って声を出したら一緒にふしゅると糸が出た。
「あれ? あなた自我があるの?」
「うん、おはよう」
「おはよう」
前脚を上げて伸び上がってみたけど、全然顔が見えない。芋虫は横しか見えないんだな。上と前は見えない。そう思っていると、抱き上げられて頭を膝にのせられた。
「ふうん? あなたよっぽどおかしいわね」
「そう?」
「なんで落ち着いてるの? 意識があったとしても嫌じゃないの? 自分の姿がわかる? あなたいま芋虫なのよ?」
「うん」
矢継ぎ早に問われた。
芋虫。まあ、芋虫だよね。
口を開くごとに勝手に糸が出て、乗っかってる膝を糸まみれにしていく。
「それになんで自分の皮を食べてたの? おなかすいてるの?」
「そういうものじゃないの?」
「まあ、本能としてはそうかもしれないわ。でも今まで食べてた人はいなかった。自分の皮よ、嫌じゃないの? それから自分の皮って美味しいの?」
「別に」
「たくさんキャベツ買ってきたのに無駄になっちゃったかしら」
そういえば昨日、彼女は体に優しいからロールキャベツを作るんだと言って、重そうなキャベツを3玉も買って帰ってきた。俺はここ1週間ほど体調が悪くて寝込んでいたから。けれども思い返せば1玉の半分も使っていなかったように思う。
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