かかふかか【短編】

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「あなたの方で言いたいことはある? 文句とか」 「俺の?」 「うんまぁ、せっかく話せるなら」 「ううん……俺のどこが好きなの?」 「そうね、なんだかんだいって優しいところかな」 「優しいかな」 「芋虫にしても怒らないし」 「まあ。この姿はなんだかおちつくんだ。人の時はいつも何かにイライラしてた気がするけど、今は妙にしっくりきてるというか」 「やっぱり変な人ねえ」  白くなった黄色い飴の隣に緑の飴が置かれる。好きだったメロン味。夏の思い出。メロンとスイカと山の色。それから彼女と一緒に食べたかき氷。  試しにかじってみても味はしなかった。俺は変わってしまったのかな。でもメロン味の思い出は今も好きだ。味はしないのに。 「好きなら俺が死ぬと悲しかったりはしないの?」 「そういう感覚はあまりないわ。私と同じ新しい私があなたを糧にするわけだから、どこかで私という群れと繋がっている」 「世の中には君がたくさんいるの?」 「そうね。まあ、何人かは」  変な生き物。妖怪か宇宙人らしいから、そんなものなのかな。 「本当は違う姿だったりするの?」 「私はこの姿の生き物よ。変身したりできるわけじゃない。ただ、さっき言ってた産卵管が普段は体内にあるくらいで。まあ、蜂の針みたいな感じで」 「俺、刺されるのか」 「あなたも散々私に刺したんだからお互い様でしょう?」 「まあ、そう、なの、かな」  子供に食べさせようとしたわけではなかったんだけど。  でも体内で栄養を供給するなら同じことか。俺は確かに彼女との将来を少しだけ考えていた。  生きてるか死んでるかなんて、多分ささいなことだ。それに世界平均では出産による死亡率はまだ高い。  彼女の指がまた背を撫でる。
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