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「今まで見た中で一番キレイな芋虫」
「そうなの? 自分じゃ見えない」
彼女はスタンドミラーをベッド脇にもってきた。
そこには黄緑色に花のような模様がついた、ところどころ輪ゴムを巻いたような凹凸のある小さな脚のたくさんついた芋虫がいた。
これが俺。
試しに脚を動かしてみると、鏡の中の芋虫も同じように脚を動かした。
なんだか面白くて、変な感じ。
「そういえば、俺に卵を生んだあと君はどうするの? 出ていくの?」
「ああ、ジガバチとかだとそうなんだよね。どうしようかな? うーん、私もここで死ぬことにしようかな」
「そうなの?」
「まぁ、私とあなたのどちらが先に死ぬかはわからないけど、せっかくだから一緒に死ぬよう祈りましょう」
別に一緒に死んでほしいわけではないんだけど。
むしろ死んでほしくはないのだけど。彼女が好きだから。
彼女が世界からいなくなると考えると、なんとなく悲しい。それは俺が他の俺に繋がっていないからかな。まあ、他の俺なんていないんだけど。
「あの、死ななくても」
「あなた、私何歳に見える?」
「20くらいだと思ってたけど」
「本当は1102歳」
「えっ」
「なんかもう、いいかなと思って」
そんな長い時の果てで。
「俺27だけど一緒に死ぬのが俺でいいの?」
「まぁ、いいかな。なんていうか、自分のことを正直に話すのってほとんどなかったし」
「そうなの?」
「人に卵を産みつけて増やしてるんですって言える?」
「ああ、まあ、そう、だね」
「本当に変な人」
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