愛し子よ

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「誰か世話を焼いてくれる親戚はいないのかね」 1年前、母を食べながら生き物は言った。 綾子は首を横に振った。こんな生き物がついているものだから、母方の一族はほぼ全滅しているし、父方の一族とは絶縁状態だった。 生き物は綾子の母の右腕を引きちぎって口に運び、咀嚼しながら、静かに語った。 「なあ、綾子。お前はまだ、大人に世話してもらう年だよ。学校に行って、勉強して、いい大学に行く。大学に行きたくないなら、就職したって良いさ。でもとにかく、まだこれからだ。一人で生きるには、幼くて心配だ」 綾子は母の血で汚れた床を拭きながら言った。 「大丈夫よ。また、保険金が入るから」 「お金だけの問題じゃないんだよ。常識の問題さ。子供は大人に世話してもらう権利があるんだ。子供は子供らしい生活をする。そうして大人になったら、人を愛して暮らす。それが幸福というものだ」 綾子は母の骨の砕ける音に集中して、聞こえないフリをした。 生き物は綾子の母の頭を噛み砕くのに苦戦していた。 父の時も、弟の時もそうだったから、今度は手伝ってやろうかと、綾子は思った。 茹でて柔らかくしてやるとか、ハンマーで砕いてやるとか、やりようはいくらでもありそうだった。
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