愛し子よ

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綾子は床に丸まっている生き物を見下ろし、痩せこけた腹が呼吸に合わせて上下するのを見た。 生き物は、綾子に何も無理強いしない。母についていて、死んでいった生き物もそうだった。 母は、自分の生き物に、綾子を食べさせることはできないと涙を流しながら伝えた。 母の生き物は、ただ、そうか、と頷き、静かに死んでいった。 綾子はよく焼けたベーコンと目玉焼きを、大きめの皿に移した。 ちょうどよくトーストも焼き上がったので、まとめてテーブルに運ぶ。 生き物は綾子についてきて、ひょいっとテーブルに上がったが、また丸まって、くうくうと寝息のような音を立て始めた。 綾子は生き物の腹に浮いたあばら骨と、穏やかな表情を見つめながら食事をした。
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