そして、二人は

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月曜日、私は三浦さんから頂いた指輪を付けて仕事をしていた。 今までは浮腫む手に指輪が辛いと敬遠していたが、特別なものは別腹とばかりに受け入れられた。 時折、自分の指を見てはニンマリしてしまう。目の前にはもっと好きな三浦さんがいる。私は本当に幸せ者 だ。 星山さんからメールが届いていた。 「三浦さん、星山さんからのメール見ました?」 「ああ、本社から人事に関する申し継ぎって件ですね」 「意味わかりました?」 「うーん、内容があっさりよくわからないですね」 「ですよね、私、直接聞いてきますね」 私はそういうと健康管理室へと向かった。 健管のドアをノックし入室する。 「お疲れさまです。星山さんいます?」 入室したとたんに、ドリップコーヒーの香ばしい香りが鼻孔をくすぐった。 (健管ってなぜか優雅に時が過ぎている空間だよなあ) 奥の部屋から、颯爽と星山さんが登場した。 「どうしたの?」 「先ほどのメールの件です。もう少し詳しく聞きたいと思いまして」 「ああ、今年の新入社員で食物アレルギーのひどい子が本社にいるらしいの。  で、あれ?」 星山さんが話の途中で私の指輪に気が付いたようだ。 「あらー。前とは違うものよね⁈」 星山さんに覗き込まれるように見られやや気恥ずかしい私。 「はい……」 「噂の彼はセンスのいい方だったのね」 ふふっと笑われた。しかし、星山さんは何かに気が付いた。 「んっ? これって……。植村さん、婚約したの?」 「こ、婚約? いえ、していませんよっ」 いきなりそんなワードが飛び出し、びっくりして手を振ってアピールした。 「だってこれって、あのブランドのエンゲージリングでしょう?」 「エ、エンゲージリング???」 星山さんがスマホを取り出し、なにやら検索をかける。 「ほうら、これ」 とスマホ画面を私の顔面に突き出した。 目を大きくして画面を覗く私。 とあるブランドのホームページに載っているリングは、私が頂いたものと同じデザイン。 そしてそこには『エンゲージリング』と書かれていた。 私は思わず体がのけぞってしまった。すごい事実を知り、青ざめていく。 「植村さん、気づかなかったの? 彼氏は何も言わなかったの?」 うそでしょう、という顔で星山さんは私を見る。 私は静かにうなずくしかできなかった。 「ふふっ、きっと似たもの同士なのね。  エンゲージリングはダイヤの爪が無いほうが、日常使いがしやすいからね。  植村さんの好みに配慮してくれたのよ」 私は言葉が出なった。 三浦さんからのメッセージなんて、一ミリも受け取っていなかった。星山さんの説明を聞いて、自分のとんでもない勘違いに気づき全身に鳥肌が立ち始めた。 (私、てっきり誕生日プレゼントだとばかり思っていた!) どんな顔したらよいのかわからぬまま、自席に戻った。 しかし、そうはいっても星山さんの考えすぎってこともある。でも、たしかにあのタイミングで誕生日のお祝いも不自然でもあった。 私が受け取ってエンゲージリングだと気が付かなかったから、三浦さんもリアクションもおかしかったのだろうか。 それならなんでそうと言ってくれなかったのか。 (うーん、名探偵でも答えはでなそうだなっ) 三浦さんの顔をパソコン越しに見る。彼は気づかず仕事をこなしている。 (ああーーっ、そうかっ) 突然、私の頭の中で何かがつながった。本当に電球が明るく光ったようだった。
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