第三検温所

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第三検温所

 初診手続きの③番窓口で貰った受診票を耳鼻咽喉科専用窓口に提示すると問診票と体温計を渡された。 その問診票はまるで医学部入試の答案用紙のようである。それはそれは数多くの項目に質問が並べられていた。    もしかすると少しでも待ち時間の苦痛を和らげるための陽動作戦なのかもしれない。それが証拠に、これを書き上げるには相当な労力と時間を必要とする。さらに初診の経験を追うごとに感じるのは難しい専門語が増えているように思う。特にこれまでの疾患を答える際の医学用語は難しい、病名にはどうしてあんなに月偏が多いのだろう。 「ピッピッピ・ピッピッピ」 (脇に挟んだ体温計のお知らせ音だ、34.8度か・・私は問診票に書き入れた)  ところが、これまでの経験を語ると、折角回答した問診票だが、診察室でこの件に触れられた記憶が無い。どうかすれば(それって問診票に書いたでしょ⁉ 先生、全然見てくれてないの?)と言いたくなることもあった。  でも、そのような憶測で物は言わない方が賢明だということも、欠かさず申し上げて置きます。 (何でやて⁉ それはですね・・・)    自分の前の患者さんが、随分前に出て行ったはずの診察室、その扉をずーっと見つめ続けたことって有りません? もしかしてそのインターバルが自分の問診票の回答を解読している時間だったとしたら、恥ずかしくなりますよね。 「―――ト様・・・―――ト――ル様・・」 (あっ看護師さんが患者を呼んでいるようだ)看護師さんの呼び出しがマスク越しのためか・・いいやそれだけではない、音楽を聴いていた私はそのヘッドホンのアンビエンスボタンをONにした。 「ーマモト様・・・ヤマモト・・」  私だ、私を呼んでいる。だけど私の受信番号はまだ表示されていないのに・・私はすぐさま看護師に向かって挙手をした。そしてその手を大きく左右に振った。さすがだね直ぐに気付いてくれた。 「ヤマモト様ですね。」 「はい!」 「すみません、確認のためご自分のお名前をフルネームでお願いいたします。」  えっ、今あなたが私の名前を呼んだんでしょ⁉ ヤマモト様って、それでも確認するの? 「ヤマモト・マサルです。」
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