君が残していったもの

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 彼女は果たして幸せになれるだろうか。  彼女が望むような相手――少なくとも僕よりは彼女の理想に合致する相手――を見つけて、同じ物を見て笑い、言葉を交わさず理解し合い、生きていく。  そんな無茶と無謀を繰り返していく人生を、本当に歩むことができるのか、甚だ疑問だ。  僕とは全く質の違う人間を恋人にしたとしても、また同じ事を繰り返してしまうのではないかと。  そんなことは、不和と不便と不調と不快の象徴である僕が心配することでもないのだろうけれど。それでも、疑問に思うし、心配だと思う。  そう思うぐらいは、許してほしいと思う。  僕がなにもかも忘れて幸せになるには、少し時間がかかるかもしれない。  コーヒーの香りがしても、冬用の上着を見ても、髪の長い女性と会っても。  ようは何をしていても、君のことが頭をよぎる。  毎日生きているだけで、君の不在にうろたえる。  君がくれたコーヒーミルが壊れるまでどれぐらいかかるのだろう。  君と選んだカーペットがすれて使えなくなるのはいつになるのか。  君と見た映画で笑えるようになる日は、きっとこないだろうけど。  笑えないという思い出が消えるまで、どれぐらいかかるのだろう。  いつかこの部屋から君の残した物が消え去っても、きっとまだ僕の中には君がいるのだと思う。  そうして、する必要の無い心配をし続けるのだろう。  君は、幸せになれただろうかと。
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