君が残していったもの

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 僕はこの部屋でしばらく暮らした後、新しく一人用の部屋を借りるのだろう。それか実家に戻るのかもしれない。  君からもらったコーヒーミルで挽いた豆の香りをかいで、苦手な味のコーヒーを入れて飲むのだろう。そのうち味も好きになるよ、と君が言っていたことを思い出す。  結局いまだにコーヒーの味は苦手だ。だから、彼女がコーヒーを飲んでいるのを近くで眺めていられればそれで良かった。  この部屋の中には彼女が僕にくれた物の他に、僕が彼女に渡した物も残っている。どうやら一つとして鞄には詰め込まれなかったらしい。  僕が何年か前に渡して、冬になると毎日のように着ていたから気に入ってくれているのだと勘違いしていた上着も、ハンガーラックの奥にかけたままだった。  日常生活に必要な作業は例外として、彼女が僕のためにしてくれた事やくれた物が役に立ったことはほとんどない。  おそらく、僕が彼女にした事や渡した物も、彼女の役に立っていたわけではないのだろう。  僕はそれを良しとして、彼女はそれを悪しとした。
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