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2話
頭をハンマーで殴られたような衝撃を受け、私は何も言えず、その場に立ちすくんだ。それでもメガネの人は説明を続けていた。
「この人間界とは別に神界がこの世にはあり、私達はここではなく神界の者なのです。たまに貴方のように、こちらで暮らしていた人が実は神界にいるべき人であったことがあります。その方々はきちんと納得いただき、皆神界で暮らしているのです。」
「ちょ、ちょちょっと待ってください!」
理解ができていないのに色々説明をされ、頭が追いつかない。どうしてもそんなこと信じられるはずがなかった。
「えっと、待ってください…宗教勧誘の方?」
「違います。事実です。」
バッサリと言われ、次の言葉に詰まる。真っ直ぐ見つめる瞳に、嘘をつくような光は宿っていない。だからこそ訳がわからなくなる。
「え、あの…。」
あなた達は誰?神の生まれって?神界って何?人間界とは違う世界って何なの?たくさんの疑問が頭に浮かぶものの、ありすぎて何を先に聞くべきなのか。理解しようにも分からない状況に、私は聞く言葉さえも出てこない。
「…ったく、だから言ったんだ。ぜってぇ信じないってな。」
「そりゃあ、信じないのが普通ですよ。」
冷静に答えるメガネを見て、がらの悪い人は腹立たしげに声を荒げた。
「んじゃどーすんだよ!」
「…。」
メガネの人は少し考えるように頭を捻り、そしてまた私と同じ目線になるよう、腰を折った。
「信じられません?」
「…はい、申し訳ありませんが。」
「いえいえ。それが普通なのですから大丈夫です。他の人も大体信用されません。…リオン。」
メガネの人はがらの悪い人の名前を呼ぶだけで何も言わなくなった。私は首をかしげ、がらの悪い人を見上げる。しかし私と同様彼も意味が分からないという感じだった。
「あ?んだよ。」
「…あなたはバカですか。言ってダメならやってみろですよ。」
「知るか!口で言えよ口で。」
そうブツブツ言いながら、少し離れたところへ歩いていくがらの悪い人。それを見ながら私はメガネに話しかけた。
「あの、何をするんですか…?」
「神の生まれであること、普通の人じゃないことを手っ取り早く知ってもらうために、神力を見てもらうんです。」
「神力…?」
「ここでいうところの超能力みたいなものです。」
超能力…。がらの悪い人は遠くにいってもブツブツと何かを言っている。意外と根に持つタイプ…?そう思っていると、横からポツリとメガネが呟いた。
「はぁ…あの人子供っぽいですよね。」
「ふふ、はい。」
少し緊張が溶けたのか、自然と笑えるようになっていた。この二人が何者なのか、何で私の名前を知っているのか。全然分からないけれど、敵意や悪意がない。不思議な人だけど危険じゃないということだけは分かった。
「おーい、やるぞ!」
手を挙げ合図を送る彼にメガネが、スッと手を挙げて返事をした。それを見たがらの悪い人は両手を胸の高さまで上げ、掌を上に向けた。すると、
「え…!?」
バチバチバチと黄色の稲妻が走るのが見えた。メガネは何も驚くことなく見つめている。がらの悪い人は私の反応を楽しむかのように、得意気に稲妻の形を変えていった。ただ縦に広がっていた稲妻が丸、三角、四角…。目の前で現実とは思えない光景が広がっている。これで信じないという方がおかしいが、でもだからって神界やら神力やらをすんなり受け入れることは、やはり難しい…かもしれない。
「どーよ。」
がらの悪い人はどや顔でこちらに近づいてきた。どうだ、すごいだろと言いたげなその顔がなんとなく腹が立つ。…よし。
「…手品ですか?」
「あぁ?!お前ここまで見てそれはねぇだろ!」
クスクス。すぐキレるけど、全然怖くない。相手を威圧することないよう不満を言っている。優しい人だ。
「ふふ、ごめんなさい。」
「…ったく。で?信じたかよ。」
「そうですね……本音を言えば全然信じられません。」
「あぁ!?」
「でも!…でも信じたいと思いました。」
2人はただ私の方を見て、静かに話を聞いてくれた。
「そりゃ胡散臭いなとは思いました。けど、2人を見ていて嘘じゃないのかな、騙しにきた悪い人ではないのかなって思ったんです。…稲妻もすごかったですし。」
ふんと鼻をならすリオンさん。それを見てクレイさんは、鬱陶しそうに虫を見るようにしていた。騙すもなにも、自分を隠そうとしない性格。
「…教えてください。私の名前をなぜ知っていたのか。本当に私が神の生まれであるのか。」
それから私は家に2人を案内した。ビックリしたのは、リオンさんがちゃんと『お邪魔します』って言ったこと。偏見だけれど、そんな礼儀正しく言う人とは思えなかった。クレイさんは予想通りだったが。
「それで?君は何が聞きたいんですか?」
「え!?私言ったじゃないですか、さっき!」
「ふむ…それではまず神界について話した方がよさそうですね。」
クレイさんが話そうとしたその時、リオンさんが我慢ならないという風に口を開いた。
「それよりよぉ、どうだったか?俺の稲妻。」
今はそんなこと言ってる雰囲気じゃなかっただろとクレイさんが言っている気がする。横から不穏な空気を感じながら、私は笑顔を向けた。
「すごかったですよ。神力?でしたよね。あの稲妻ってクレイさんにも出せるんですか?」
話を回した私に、クレイさんは仕方ないとため息をついて話してくれた。
「あれは彼だけですよ。リオンは稲妻の神ですから。」
「え!?神様ってそんな分類されてるんですか?」
「はい。皆が皆使えるわけではありませんし、こういう強い力もあれば、埃を集めることが出来る力など様々なんです。」
なぜか自慢げに胸をそらすリオンさん。私はそんか彼を無視して続けた。クレイさんも無視をする。
「へぇ…!あ、じゃあ私も神界の住人なら何かあるんですよね?」
「あぁ。」
「私は何の力なんですか?」
「君は…。」
ドキドキ。高校受験の時の合否待ちの時のような緊張が走る。知りたくて、でもどうなるか分からなくて、期待と不安に満ちたこの気持ち。
「君は…分からないんだ。」
「…え?」
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