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3話
「分からないって…どういうことですか?」
神界の住人は皆神力を持っていると彼は言った。それなのに私は分からないなんて…やはり自分は違うのではないか。同姓同名の人違いなのか。という考えが脳裏に浮かぶ。そんな私に対し、クレイさんは何ともないといった落ち着いた様子で話した。
「君はまだ16になっていないでしょう?」
「え?まぁ、はい。」
「それですよ。神力については16歳の誕生日、神力を見分ける者が伝達しにくるのです。それまでは誰が何を持っているかというのは、はっきりと分かりません。ただ予想の範囲でなら分かる場合もありますが、大抵分かりません。」
「そうなんですか…。」
何か異常があるわけではなく、ただ16歳ではないからという理由なだけということを知って安心した。…16歳になれば私が何者なのかが分かる。そして彼らが本当のことを言っているのかどうかも。リオンさんが行った事を、嘘だとかマジックたとかではないことは、十分よく分かっている。でも確証があるわけじゃない。きちんと事実であるかどうか、私がこの身を経て確認したい。誕生日まであと1ヶ月。あと1ヶ月で全てが分かるんだ。
「それはそうと、君には私達の住んでいる家に来てもらいたいのですが。」
「はい……え!?」
色々考えていたため咄嗟に返事をしてしまったが、よくよく考えてビックリしてしまった。それを気にせず、クレイさんは続けた。
「実は私と彼、そしてもう1人神界から来ているのですよ。あなたに会いに。」
「私に?神の生まれであるのに、ここにいるからですか?」
「まぁそれもありますが…。光の支配者様…ここでいう女王様が私達をあなたの世話係にしたからですね。」
光の女王様…?世話係??聞きなれない言葉が次々と出てきて、頭が混乱してきた。
「ごめんなさい、私には何がなんだか…。」
「はぁ、そうでしょうね。ではまず神界について説明しましょうか。」
次は邪魔をするなよという鋭い視線でクレイさんはリオンさんを睨んだ。リオンさんも流石にヤバいと思ったのか、少し不服そうにしながらも大人しく座っていた。
「神界とは2つの場所に区切られています。私達光の世界と別の闇の世界。光の世界には光の支配者様がいらっしゃり、闇には闇の支配者様がいらっしゃいます。今は闇の支配者様が亡くなり、闇の勢力は落ちつつあるため、ほとんどは光の者が多いです。光の世界は温かく皆が幸せに過ごしています。緑で溢れかえり、全てが輝いて見えるのです。」
そう楽しそうに言うクレイさんを見て、本当に良いところなのだと感じられた。話を聞いているだけで、どんなところか想像ができる。クレイさんは本当に神界が好きなのだ。
「元々は普通の世界でした。ですが光の支配者様が現れ、光の世界を変えてくださったのです。もっと皆が自由に楽しく暮らせるようにと。ですので、支配者様に力が敵わないのは当たり前ですが、支配者様に反論する者もいないため、逆らう者なんていないのです。私達はあの方に感謝しかないのだから。」
「素敵ですね。」
「えぇ。本当に素晴らしい世界ですよ。」
「いいなぁ…見てみたいです。」
「…そうですね。見られますよ、神力が何か分かったら。」
本当にそんな世界があるのなら行ってみたいし見てみたい。こんな見て見ぬふりをする世界よりずっと綺麗な世界に違いないのだから。少し1ヶ月後が楽しみになってきた。
「そんな人がなぜ皆さんを私の世話係に?私はまだ神力も何も分かっていないのに。」
「それは……」
「分かんねぇよ。」
口ごもるクレイさんの前でリオンさんがバッサリと言った。
「あの方の考えることなんて分かんねぇ。何か考えてるかもしれねーし、ただそこに俺らがいたから、何も知らないお前の世話係にしたのかもしれねーし、俺らには分からねぇよ。」
そうなのかな…。確かにこの世界でもお偉いさんの考えていることを分かる人は少ない。それと同じなのだろう。そう思いながら私はチラリとクレイさんを見た。先程クレイさんが黙り込んだから何か言えない秘密があるのかと思ったが…ただ分からないと言いたくなかったのだろうか。完璧主義者の人って、分からないと他人に言うのは抵抗があると聞く。多分それだったのかな?そう思うと、今まで淡々としていたクレイさんの人間味を見たようで少し親近感を覚えた。
「光の世界は分かりました。では闇の世界はどんな感じなんですか?」
「分かりません。」
即答でそう答えたクレイさんに私は目を見開いた。さっきは言わなかったのに…。
「光と闇の世界には隔たりがあって、光の住人は闇の世界は見えないのです。また逆も同様に。ただ光と闇の支配者様はその隔たりの壁を透かして見ることができるそうです。」
私が驚いていることをスルーしてそう述べるクレイさんを見、私はコソッとリオンさんに尋ねた。
「あの、完璧主義者って分からないって言わないんじゃないんですか?何で次はこんなにハッキリと…。」
「あぁ~…さっきは光の支配者様について答えられなかったのが、プライドに関わったんじゃね?でも今の見えないってやつは神界の常識だからな。その違いだと思うぞ。」
なるほど。知識やプライドの問題だったのか。こそこそ話している私達を見つけ、クレイさんが怪訝そうな顔をする。
「…何を話してるんです?」
「「なんでもない(です)ー。」」
まさかリオンさんと私が被るなんて思わなく、二人して目を合わせた後クスクスと笑ってしまった。それを見ていたクレイさんは少し面白くなさそうな顔をした。
「それで?私達の家に来るんですか、来ないんですか?」
「あ、そーだったわ。来いよ、ユイ。ここよりは楽しいと思うぜ。」
2人が立ち上がり私に向かって手を伸ばす。私はじっとその手を見つめた。この手を取ったら私は、この家と学校を捨てることになる。そうなったら人生はどうなるだろう。彼らが嘘を言ってた場合、学校に行かなかった私は良い仕事に就ける可能性は断然低くなる。彼らについていくことは私にとってリスクが大きすぎる。でも…そう思い私は2人の顔を見た。無表情だけど嘘を言わない印象のあるクレイさん。柄が悪そうに見えるけど、裏表の無さそうな笑顔を向けるリオンさん。彼らの言うことを信じてみたい。この退屈な人生から抜け出したい。これは大きな人生の選択。彼らを信じるか信じないか、それによって今後の人生が大きく左右される。
私は親に家族に信用されたことがなかった。だから私も信用することがなくなった。学校でも信用を装って結局裏切る人がいた。そんな人達とこれからも付き合っていくのか、それとも彼らを信じ新しい世界に踏み出すのか。答えなんてそんなの、決まっている。
「はい…!」
私は彼らの手を取った。少し嬉しそうに顔を逸らすクレイさんと、嬉しさ満開に笑顔になるリオンさん。2人を信じてみたい。その向こうにいるもう1人の私の婚約者という人も。裏切られた時はその時考えよう。そう決心し私は家から足を踏み出した。
それが彼らの計画通りだとも知らずに。
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