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4話
「こちらが私達の住む家です。」
そういって案内された場所は、私が今まで住んでいたところと遠からず近からずといったところだった。目の前には大きくて綺麗な家。白を象徴として作られていた。
「大きい…。」
「そりゃ4人で住むんだ。これくらいデカくねーとな!」
ニカッと笑い、そう話してくれるリオンさん。あの時の声が被った以来リオンさんの心の壁が取れたのか、にこやかに話しかけてくれるようになった。まさかクレイさんより先にリオンさんと打ち解けられるようになるとは…人生思わぬことばかりだ。そう思いながらクレイさんを見る。真顔か不満そうな顔ばかりで少し話しにくい人。どうにか話題を振らなければ…そう考えていたところ、1つの疑問が頭に浮かんだ。
「あ、そういえば…クレイさんはどんな神力を持ってるんですか?」
唐突な質問に、クレイさんは少し目を見開いて私を見たが、すぐに視線を家の方へ戻してしまった。
「氷です。」
「へぇ…クレイさんっぽいですね。」
「…そうですか?」
「はい。何か…静かでクールなところとか。」
淡々としているところとか、リオンさんに対して冷たいところとか。…という言葉は胸に秘めておこう。余計気分を害して話してくれなくなるかもしれないから。
「そう…ですか。」
「はい…。」
それからというもの、特に家に入ることなく3人はその場で立ち尽くしていた。シーンと静まり返った気まずい雰囲気。自分から家に入ろうなんて言えるはずもなく、しかしこの時状況にも絶えられず、救いを求めようとリオンさんを見る。するとリオンさんは口元を覆い必死で笑いを堪えようとしている最中だった。何があったのか分からず、ずっと見つめていると私の視線に気づいたリオンさんは、コソッとクレイさんを指差した。ん?何だろう…。とクレイさんを見た途端、私はリオンさんのようにすぐき口元を抑えた。笑いそうだったのではない。驚きすぎて、声が出そうになったからだ。クレイさんは…クレイさんの顔は……少し赤くなっていた。
え!?どうして?何かあったの?プチパニックに陥った私は口に手を添えたまま、何もない道をキョロキョロと見回した。あのクレイさんが赤くなっている…。そんなことがあり得るのだろうか。まるで今まで信じてきたことが、実は嘘であったのを目の当たりにし、受け入れられないような気分になる。そんな私を見かねたリオンさんは、少しクレイさんから距離を取るよう私を引っ張って言った。
「…アイツ、自分の神力すげー好きなんだよ。」
「あ、そうなの!」
「光の支配者様から褒められてな。だからお前がアイツっぽいって言ったから嬉しかったん、だろ。」
最後の言葉は、笑いが堪えきれず少し震えていた。そんなにツボに入ったの…と呆れる程だ。でもそっか。嫌で怒って顔を赤くしたんじゃないんだ…。ホッとし、私はクレイさんに駆け寄った。
「クレイさん、照れ屋なんですね。」
思ったことをそのまま口に出す。すると、
「…!いつ誰がそんな事を…。」
クレイさんは怪訝そうな顔をしてリオンさんを見た。あ、やべっという顔をし逃げ出そうとするリオンさんを見逃すはずもなく、クレイさんは彼に向かって手を伸ばした。すると青く光る綺麗な光がリオンさんを捕らえ、あっという間に全身凍ってしまった。
「リ、リオンさん…!?」
「大丈夫です。死にはしません。こういうのは日常茶飯事ですから。」
慣れたから死なないと言いたいのか、この人は。手加減したから死なないと言ってほしかった…。そうのんびりと考えながら、ふとさっきのクレイさんを思い出す。確かにいつも冷たいクレイさんが照れて赤くなったら、面白くて笑ってしまうかもしれない。そう考えていたのがバレているかのようにクレイさんが鋭い視線を向ける。
「あなたもさっきの事で、笑ったりなんかしたら彼と同じ運命ですからね。」
「…はい。」
一瞬で笑いそうだった気持ちが消えた。神力とは物理的ではなく、こう心にも使えるのだろうか。そんな馬鹿げた考えをしていたら、
「入らないのですか。」
とクレイさんが扉のノブに手を掛けて、こちらを見ていた。
「あ、入ります!」
そう言ってタタッと走っていくと、
「誰か俺を助けろよ…。」
と後ろで聞こえたような気がした。ごめんなさい、リオンさん。今あなたを助けようなんてしたら…そう思ってチラッとクレイさんを見る。彼は虫を見るような目でリオンさんを見ていた。私の身の安全のためにも、リオンさん…成仏してください。
「初めまして、ユイちゃん。」
ドアを開けるとそこには背の高いスラッとした好青年が立っていた。
「えっと、初めまして…?」
語尾が疑問形になってしまい、相手の人が不思議そうに笑顔で首を傾げた。
「クレイ…もしかして僕の名前教えてない?」
「あぁ、うっかりしてました。そういうのはご自分で伝えてください。」
わざとだ、この人。全くもって悪気の無さそうにしているクレイさんに対し青年は、えぇーと声を漏らした。
「いや自分は名前知らないのに相手に知られてるっていうのは怖いと思って、先に教えててって言ったのに…。」
あれ、この人…知らない。全く知らない人。初めて会う人。それなのに何だろう…知っているようか知らないような気がする。
「ごめんね?ユイちゃん。僕の名前はアラク。神力は風だよ、よろしくね。」
名前を呼ばれはっとし、慌てて頭を下げた。
「……あ、よろしくお願いします。」
「んー?今日色々あって疲れちゃったかな?」
「……。」
分からない。何だろうこの人。なぜかこの人の事、あまり好きではない気がする。そこで私は急いでその考えを捨てた。初対面の人にそれは失礼すぎる。ちゃんとしなければ。
するとバーン!と勢いよくドアが開き、寒そうに震えたリオンさんが姿を現した。
「くっそ、死ぬかと思ったわ…。」
「リオン…クレイまた喧嘩?」
アラクさんはさして驚くことなく、そう言った。それを見て私はクレイさんの言葉を思い出す。…本当に日常茶飯事だったのか。
「違いますよ。」
「ちげぇ!コイツが一方的に…!」
「分かった分かったよ…まずリオンはお風呂ね。クレイもちゃんと謝って。」
また喧嘩をしそうな雰囲気の中、アラクさんはまるで長男のように二人を宥めた。そして私を見て、
「ごめんね、こんなに騒がしくて…。2階に君の部屋は用意してあるから自由に使って。扉の前に名札はついてるから、どの部屋かは行けば分かるよ。」
私は静かに頷いて見せた。こんなにも面倒見がいい人を好きじゃないなんて、どうかしている。クレイさんとリオンさんの背中を押して行くアラクさんを見届け、私は言われた通り2階へ向かった。疲れていたし、何より今すぐ寝たくて仕方なかった。
2階に着くと同じような扉の部屋がいくつも並んでいたが、彼の言う通り名札を探していたらすぐき分かった。ドアを開けると白で統一された家具一式が飾られていたが、私は吸い込まれるようにベッドへ入り、そのまま眠ってしまった。
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