1話

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『三日前から日本に直撃すると恐れられた過去最強の台風4号が昨夜、何と予想されていた道を逸れ、太平洋側へと向かい消滅しました。』 『気象予報士の方々によると「何が起きたのか分からない。自然の奇跡か。」とのことです。…いやぁ、よかったですね。』 『本当にそうですねぇ。あれだけの台風が消え、全国天気が晴れというのは、本当に奇跡としか言いようがありませんね。』 「奇跡ねぇ…。」 朝食を食べながら私は朝のニュースを見て、ため息をこぼした。宇宙、地球、自然。この世の中全てには何か道理があるはずだ。そんなフワフワした言葉で済ませられるはずがない。しかし気象のエキスパートが揃いも揃って分からないだなんて、やはり自然は人間が理解不可能な原理で働いているんだろう。しかし絶対に法則はあるのだ。それを突き止めるのを諦め、奇跡という言葉で片付けるなんて、世界にとって人はどこまで愚かだと感じているのだろうか。 「行ってきます。」 暗く静かな家にそう言い残し、私は学校へ向かった。 私が受験した高校は、私が元々住んでいたところとは離れたところにあるため、今は一人暮らしをしている。まだ1ヶ月半程度だが、何不自由なく生活できている。もう少し困ったり焦ったりすることがあるだろうと思っていたため、少し拍子抜けだ。まぁ、これから支障が出てくるかもしれない。けれど実家に頼ろうとは思わない。というか無理だ。この十何年間、まともに育てようとしてくれなかった家に頼っても無駄なのは分かりきっている。 学校に着いて友人と挨拶を交わす。好意を持っている人でもそうでなくても、笑顔で愛想を振り撒く。仲が良くても悪くても、自分の考えは内に秘め会話に混ざる。頭が良い人は下を見下し、悪い人は良い人をひがみ、あることないこと噂をする。それでも表向きはニコニコ笑って、まるで相手に敵意はないと言いたげに接する。 放課後になって部活に行く者、帰る者。それと教室に残る者とに分かれる。残る者はお互い同じ意見を言う者とに集まり、他人の話で盛り上がる。特に同じ空間にいる一人者に向かって聞こえるように。大体の人は、話の輪の首謀者に笑って同意するだけで暫くすれば帰ってしまう。そうやって少なくなった時、その首謀者と仲の良い人が、先程まで会話の輪にいた人に牙を剥く。 そんな世界にいたくもない私は、話の雲行きが怪しくなる前に適当に切り上げて帰る。毎日同じ。何も変わらない。ロボットになった気分だ。今日1日のスケジュールをプログラミングされ、相手に同意をすればいいだけ。ロボットと何が変わりないだろう。 夕日が私の影を長くする。私は目を細めてその赤色を見た。この世の中唯一ロボットでないのはこの自然だ。自然は自由で毎日形が変わり、人間を喜ばせたり恐れさせたりすることができる。まさに予測不可能。何でも出来るのだ。羨ましい。素敵。綺麗。…しかしその分妬ましい。学生である私達は新しいことを何も自分で起こすことができない。自分探しの旅?費用がない。更に未成年だ。会社を作る?今じゃ小学生が社長になれる時代であり、それはもう何人もやり遂げ社長になっている。何も新しくない。 誰も行ったことがない、新しくてオリジナルな事。 そんなのあるわけがない。それを求め何か行動を起こそうと考えれば考えるほど、それが不可能であることに気付かされる。結局この何もない日常を変えることはできないのだ。 その結果に気づいた私は、もう何も求めることがなくなった。このまま皆と同じように大人になり、仕事に就き、人生を終える。そう思い、諦めて生きてきた。……この日までは。 「こんにちは。」 いつも通り1人家に向かっていた時、知らない青年に声を掛けられた。メガネをかけたクール系男子。その隣には如何にもがらの悪そうな男子もいる。 「…こんにちは。」 中学の時に教え込まれた癖で、知らない人に挨拶を返す。以前不審者に挨拶をしてしまい、ストーカー紛いなことをされたのに、うっかりしていた。チラリと顔を見るとにっこりと笑ってそのまま立ち続けている。悪い人じゃなさそうと思いながらも、こちらをじっと見つめて動かないため、さっさと横を通り過ぎようと早足に歩いた。すると、 「ちょっと待てよ。」 がらの悪い方に二の腕を掴み上げられる。こっちはヤバい人っぽい…! 「放して下さい!」 「お前、名前ユイで間違ってないか?」 「な…」 なぜそれを…。そう思いながら、横暴なその態度にイライラしてきた。不審者に何もしゃべってやるもんかと、口を紡いで横を向く。 「おい、何とか話せって。」 「……。」 「チッ…くっそ。おいクレイ、コイツ何もしゃべんねーんだけど。」 クレイと呼ばれたクール男子は、はぁと呆れたようにため息をついた。 「私だって、自分より一回り大きい知らない男に腕掴まれていきなり名前なんて聞かれたら、絶対に答えませんね。」 「はぁ!?お前が聞けって言ったんだろ!」 「確かに言いましたけど、そんな強引に聞けとは言ってませんよ。」 全く…と言い、私と同じ目線まで屈んでくれたクレイという人が口を開いた。 「すみません、今人を探しているんです。もし違ってたら申し訳ないのですが、ユイさんですか?」 「……はい。」 何で俺には言わなかったんだよ、と言いたげに忌々しい目で見られる。私はその視線を無視し、メガネの人の方を向いた。 「私に何か用ですか?」 「はい。…おい、リオン。いつまで掴んでるんですか。放しなさい。」 「逃げるかもしれないだろ。」 「誰のせいでしょうね?」 仲が悪いみたい。それにしても本当に何の用だろう。初めて見る人達だし、仲の悪さ的に学校関係ではないだろう。それなら一体…。 「あのー、」 「はい?」 「腕はそのままで別に大丈夫なんで、何の用か伺ってもいいですか?」 そう私が切り出すと、あぁ!という風にメガネの人がこちらに向き直る。そして真面目な顔つきで言った。 「これから言うことは事実です。どうか信じてもらいたい。…まぁこの世界でずっと生活していた人なら、初めは信じないとは思いますが。…私達は神の生まれなんです。そしてあなたも。」 「…え?どういうことですか?」 「私達は神の生まれ変わり。この世界ではない別の世界の住人です。」
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