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ペンフレンド5
【そき姉】
久しぶりの手紙だな。
しばらく何も連絡してなくてごめん。
ここんとこ忙しすぎて、家帰るとぶっ倒れるように寝てたんだ。
この前電話くれてありがと。
留守電聞いたよ。
もうそっち出て六年経つって聞いて、おれマジかよって指折り数えちまった。
マジだった。
年取ると時間経つの早くなるって本当なんだな。
年取りたくねえ。
こっちの近況としては――――
引っ越して、仕事も新しくなった。
あ、でも、ケンカ別れとかしたわけじゃねーよ。
何度も相談して、互いに納得して決めた。
おじさんも今は俺のこと応援してくれてる。
今してる仕事は、介護用品売る仕事。
俺けっこう評判いいんだぜ?
若いのによく気がつくし、真面目だとかって。
施設に営業にいくこともあんだけど、バーサンに人気あるしな。
それで、えーと。
すげえ前のことだけど、俺たちが別れた時のこと覚えてるかな。
おれ急にそき姉の前から居なくなったじゃん。
おれ、そのことずっとひっかかっててさ。
全然おもしれえ話じゃ無いんだけど聞いて欲しいんだけど。
つか読んで欲しいんだけど。
まぁ、昔のことだし、
そき姉にとってはどうでも良いことかも知れねえけど――――
そき姉になんか――――
ちゃんと言いたくなったんだ。
あの当時、俺はそき姉にあいつ――――おれの母さんの再婚相手のこと、ほとんど話したことなかったと思う。
今もそんなに話したくねえけど。
でも説明するには話さないと行けねえから話す。
あいつはとにかく最悪な奴で――――なんていうか、
おれに手出したり、キモいこと言って来たりしてたんだ。
例えば――――風呂入ってると脱衣所にわざと入ってきたり、
他の家族のいないところですれ違いざまに胸掴んできたりした。
ちょうどそき姉と会ったとき、俺バイクで転んでケガしてたの覚えてる?
あんときが一番最悪だった。
家にだれも居ない日、俺が寝てたらあいつが布団に入って、胸触ったり脚の間に手入れてきたこともあった。
「俺が女らしくしてやるよ」とか言って。
俺が抵抗してるうちに姉ちゃんが帰ってきて、
それで逃げれたけど、それ以来、俺は一人で家にいれなくなった。
母さんは仕事だし、姉ちゃんは男とずっといっしょにいるから、
俺は仕方なく同じように親が遅い友達んちに居させてもらったり、
コンビニとか公園で時間潰したりするようになった。
そき姉は俺が夜で歩くこと何度か心配してたけど、
おれはいつもはぐらかしてたよな。
そういう理由があったんだよ。
んでこの話すると、「母親には言ったの?」って必ずってくらい言われっから、
そっちも説明しとく。
最初は話さなかった。母親が悲しむと思ったから。
でも、どんどんエスカレートしてきてもう無理だって思ったときに言った。
あいつがキモいこと言ったりしたりしてくるんだって。
でも母親は「気にしすぎでしょ」ってさ。
「お父さんも疲れてるんだから我慢して」って。
ムカつくって言うか――――悔しいってか、悲しかった。
そんときにはおれが変なこと言われたり、抱きつかれてるとこ、あの女はたまに見てた。
それなのにそう言ったんだ。見捨てられたって思ったよ。
でも、そう言われたらどうしようもねえし、これ終わらせるには早く死ぬしかないのかなって思ってた。
でもそき姉に会って――――
なんか上手く言えねえけど、目の前がバーッて広がったんだ。
今まで見てた世界は、虫眼鏡で見てた世界だったんだって気がついたみたいな。
急に普通の視野にもどったみたいな感じだった。
それで、ある時俺、ふと思ったんだ。
俺の人生、俺が動かなかったらいつまでたってもこのまま変わんねえって。
だから、あの時――――
おじさんが働かないか?って冗談みたいに言ったとき、
おれは「高卒でも働けんの?」って聞いたんだ。
そしたらおじさんは――――ちょっとびっくりして――――頷いた。
空いてるアパートがあるから、古くて狭いけどそれでよければ安く貸すって。
あー、よくわかんなくなったけど、
俺が言いたいのはそき姉のおかげで動けたって事。
その結果そき姉の側を離れることになったけど。
でも――――なんていうか、
そき姉がいなかったら今の俺は無いんだよ。
だから――――感謝してるんだってこと。
追伸
年賀状に写ってた料理は俺が作ったんじゃない。
一緒に住んでる佐和って言うやつが作ったもん。
料理好きなんだ。
あと、写ってた猫の名前は風太。
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