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返信 私から君へ
【花音君】
ごきげんよう。
年の瀬も押し迫ってきている今日この頃、君は元気かい?
近頃は寒さが身に染みるが、空が澄み渡って星がよく見えるのは楽しいね。
君も、たまには夜空を見上げる日があるだろうか。
さて、私は本当に久しぶりに手紙を書いているから、
「急にどうしたのか」と君は訝しむかも知れないね。
何かあったのか?と。
でも、本当に、特に何も無いのだ。
ただ、君がどうしているのか、ふと気になったものでね。
というか、そもそも、君は私のことを覚えているだろうか。
私は勿論覚えているがね。
君と会ってから、すでに一四年が経っているということに、
時のせわしなさを感じずにはいられない。
君と過ごした日々は、私にとって、本当に印象深い日々だった。
君がこっちにいたときもそうだが――――君がそちらに行って、一年が過ぎた頃だったかな。
君は一度、こちらに戻って来てくれたね。
君は初めてのお給料で、私に焼き肉をおごってくれた。
あの焼き肉の味は生涯忘れられないよ。
君が向こうで立派にやっているという嬉しさも相まって、
あれほどおいしい肉を、私は人生で初めて食べた、と思ったものだよ。
そして――――
もう時効だから書いてしまうがね。
正直なところ、私は――――一
抹の寂しさを感じていたんだ。
君は、あのとき、確かに私とふれあいたいと望んでいたはずだし、私たちは――――キスもした関係だったはずだ。
しかし、君はそんなことには全く触れずに私に焼き肉をおごり、家に帰っていった。正直、拍子抜けしたような感じだったよ。
それでも――――それを言うのは自重した。
なぜなら君には新しい生活があるから。
そして、数年後、私はそれでよかったのだと改めて思ったよ。
君が料理好きなパートナーと猫と一緒に写っている年賀状を目にした、あの瞬間に。
さて、私が今頃になって君に手紙を送ろうと思い立ったのには、
実はもうひとつ理由がある。
私はずっと気になっていたことがある。
それは、あのとき貰った君からの質問に、未だに答えていないことだ。
あの当時は恥ずかしかったり、見栄を張ったりして、
ただ答えるのが憚られたのだが、
今となっては何故あのときあんなにはぐらかしていたのかよくわからない。
まあ、幼かったのだね、私も。
きみはその質問について、もうほとんど覚えていないかも知れない。
だが、私は君からの手紙をすべて保管しているので、つい思い出してしまうのだ。
ということで、私のけじめのために、ここに答えを書かせてくれたまえ。
まず、誰かと交際していたことがあるのか、と君は聞いていたね。
一言で言うとある。
告白された次の日に断られた(罰ゲームだったらしい)のを含めると、
3人と付き合った。
一人は一年、一人は三年間付き合った。
そして性体験の有無だが、これもある、と言っていいと思う。
あるというか、何度か試行錯誤した、と言うのが正しいな。
しかし、それがきちんと形になる前に、
その男は職場の他の女性と関係を持ったので、それ以上の経験は無い。
ちなみに君と会った当時、私が無職だったのは、私がこの会社を辞めたからだ。
付き合った相手に浮気されて(その彼女とその男は後日結婚したらしい)
居づらくなって会社を辞めた。陳腐な理由だ。
これを言いたくなかったのは、
これについて君がどう思うか、
それを想像すると少し怖かったからなんだ。
でも今考えると、それも安いプライドだという気がするよ。
もっと情けないことを書いてしまうと――――
君が私を性対象として愛してくれたことを、私は少なからず、嬉しいと思っていた。
前述のことで、私はすっかりそういう事について自信を失っていたから
――――つまり、自分の自信のために、
私は君との関係を続けていたという部分が、
少なからずあったと思う。
全く、考えれば考える程、私は弱い人間だ。
自身のずるさについて、今は十分すぎるほどよくわかっているが、
当時は隠したかったのだよ。
とくに君にはね。
君に尊敬されながら、欲しいと思って貰いたい――――
なんて、私はずるいことを考えていたのだよ。
さて、ここまで、つまらない話を聞いてくれてありがとう。
こんな告白をしてしまったあとで、君がどう思うかはわからない。
だが、私は、また機会があったら会いたいと思っているよ。
できたら、顔を見て話したい。
無理なようなら、年賀状だけでもくれると嬉しいよ。
私の住所は変わっていないから。
ではまた。風邪など引かないようにね。
追伸
同封したしおりは、和泉式部のしおりだ。
出先でたまたま見つけて懐かしく、つい買ってしまった。
しおりなど今時使わないかも知れないが、記念に貰ってくれ。
あとそうそう、胸のサイズについてだな。
当時は太っていたからな。
GからHくらいだったと思う。
正確なことは忘れた。すまない。
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