旅立ち

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旅立ち

「父さま、母さま、僕決めました。番を探す旅に出ます」 「旅って……外は危険だよ?お前に何かあったらと思うと俺は心配で夜も眠れなくなりそうだ…」 心配して眉を顰める母さま。 「ありえない。お前も知っているだろう?人間たちの愚かさを!そんなところに可愛いお前をやれるものか!」 激昂する父さま。 どちらも僕の事を心配しての事。 二人の気持ちもよく分かる。だけどね。 「でも、このままだと僕はひとりぼっちになるんです。何百年もの孤独なんて耐えられそうにありません。父さまは僕よりもっとずっと若い歳で旅に出たと聞きました。僕だって番が欲しい―――」 「だけど、もう―――」 続く言葉は『俺たちの他に白き竜もトリノ一族もいないのに』だ。 「母さまのおっしゃりたい事は分かります。でも、僕は超進化完全体です。番う相手は一族以外でもいいはずです」 僕と母さまのやり取りを不機嫌そうに見ていた父さまが咆えるように怒鳴った。 「うるさい!その話は終わりだ!まだ言うのなら檻を作って閉じ込めてしまうぞ!」 「父さま!」 「疲れた。俺は休む。いいか?もう二度とそんなバカな事は考えるなよ?」 父さまはそう言うと疲れたようにふらふらと寝室へと消えて行った。こんなに一方的な父さまは初めてだった。それだけ父さまの人間に対する悪感情が強いという事か。 オロオロと俺たちの事を見ているだけだった母さまも父さまを追って寝室へと行った。 一人残されて思う。 ほら、こんな風に僕はいつか本当に一人になってしまうんだよ? これは父さまに寿命の事を言われる前から考えていた事だった。 僕は白き竜とトリノ一族どちらともの特徴を持っている。 だから番う相手はそれ以外の人物でもいいのではないか?と思うのだ。 人間はずる賢く凶暴で自己中心的などうしようもない存在だと父さまからは聞かされている。 だけど僕はそうは思わないんだ。 人間すべてがそんな風だったら世界はとっくの昔に終わってるんじゃない? お祖父さまである白き竜が番を殺されて怒り狂ってもたらした天変地異の後も立ち直ってちゃんと生活を送っていたじゃないか。 僕はそんな人間たちの事を逞しく、幸せになる事に貪欲なだけなんだと思うんだ。 そりゃあやっちゃいけない事を沢山したよ。人間がトリノ一族にした事は僕も許せない。 でも、僕は夜空いっぱいに輝く星のように数多いる人間の中にたった一人だったとしてもいると思うんだ。 あの間違いに気づけた人が。心の美しい人が。僕はそれを信じたい。 そしてその人が僕の番になってくれたなら―――なんて、甘い夢をみたりもするんだ。 幸い僕には数百年の寿命がある。 このままここで朽ち果てていくくらいなら何百年かかったとしても僕は番を探す旅に出たいと思う。 ***** 父さまも母さまも最後までいい顔はしなかった。父さまは本当に檻を作って僕の事を閉じ込めてしまいそうな勢いだった。 それでも僕の決心が硬いと知ると母さまが僕が旅に出る事を許してくれたんだ。 父さまが最近お年のせいかよく眠るようになっていた。 母さまも僕の気持ちを分かってくれたのだろう。自分一人残される不安。 母さまにしたって、愛し子を一人残して逝ってしまう不安。 母さまは父さまが眠っている隙に、過保護かってくらい色んなものを持たせて送り出してくれた。 番を見つけ、次にここに戻る頃父さまたちはもうこの世にいないかもしれない。 短い間だったけど、僕は父さまと母さまの子どもに生まれて幸せでした。 零れそうになる涙をぐっと堪える。 涙を見せるのは違うと思うから、僕が自分で決めた別れだ。 だから心配をかけないように笑顔で別れなくてはいけない。 涙を流す母さまに見守られながら住み慣れた我が家を後にした。 父さま、言いつけを守らない悪い息子でごめんなさい。 母さま、不出来な息子の願いを聞き届けていただきありがとうございました。 「行ってきます」
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