エストレジャ

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エストレジャ

エストレジャに連れて行かれた場所は小さな一軒家で、どうやらエストレジャの住まいのようだった。 エストレジャ以外の気配を感じずホッとする。 ん?ホッと? 首を傾げながら見渡す部屋は、狭いながらも掃除が行き届いていて、置かれてある小物や道具なんかも決して値の張る物ではないだろうがセンスのいい物が揃っていた。 温かみがあってとても居心地がいい家だな、と思った。 まるでエストレジャそのもののような……。 そこまで考えてはっとする。 まだ出会って十数分ほどしか経ってないのに、エストレジャの事を好意的に見過ぎている事に驚く。 旅に出て出会った人間は何人かいた。 そのどれにも感じた事のない感情がエストレジャ相手だと感じてしまうのだ。 この感情の名前はまだ分からない。 だけど、決して嫌なものではない事だけは分かった。 家で待つように言われ大人しく椅子に座って待っていると、外で複数の人の声が聞こえた。 窓から声のする方をそっと伺うとエストレジャと複数の若い男たちが何やら言い争いをしているようだった。 「だからー別にあの子はそんなんじゃないわ。旅の途中で荷物を盗られて困っていたから連れて来ただけよ。あの子は関係ないわ」 どうやら僕のせいでエストレジャが何か言われているようだった。 「エストレジャ、そんな事言って誰にも相手されないからって何も知らない小僧を垂らし込んでんじゃねーのか?」 にやにやと下卑た笑いを浮かべてエストレジャの事を見る男たち。 僕はいてもたってもいられずにエストレジャの前に躍り出た。 「出て来ちゃダメよ…っ!」 「僕はたらしこまれてなんかいません。僕が困ってたからエストレジャは親切で僕を連れて来てくれたんです。エストレジャを貶める事を言うのは止めてください」 「はっ」 鼻で笑う男たち。 僕が小柄で幼く見えるからバカにしているのだろう。実際は116歳とここにいる誰よりも年上なのだが。 「その男はな女のフリをしてる男なんだよ。綺麗に見えても男だ。隙を見て男を垂らし込もうとしてるんだ。お前何されるかわからねーんだぞ?」 ドンドン強くなる不快感と嫌悪感。 あぁ父さまたちが心配していた悪意が目の前にいる。 はぁとため息を吐く。 「エストレジャはそんな人じゃない。それに、女のフリをしているわけじゃない、と思います」 「え…」 エストレジャの声だった。 「何で女のフリになるんですか?どんな言葉遣いでも別にいいでしょう?誰に迷惑をかけているわけじゃない。エストレジャにとってこれが自然な事ってだけですよ。とても似合っていて魅力的です」 振り向き、エストレジャににっこりと微笑みかける。 エストレジャは、頬を真っ赤に染めどこか信じられないといった表情で僕の事を見ていた。 「は?お前どこの田舎から出て来たんだよ。そいつは言葉だけじゃなくて、男が好きなんだよ。綺麗だなんだと言ってみても同性婚なんて法律で許されてねーし、だからこいつは存在自体が罪なんだ」 「――え?同性婚が許されていない…?」 確認をとるようにエストレジャの方を見ると、こくりと頷く。 「白き竜さまの怒りをかって以来同性婚は忌むべき物って事になったんだ」 「白き竜――――」 「なんだよ、白き竜さまの事も知らねーのかよ。はっ。だからこんなやつと一緒にいられるんだな。ま、せいぜい食われないようにしな。俺たちは忠告はしたからな?」 そう言って帰って行く男たち。 父さまは同性婚を嫌ってなんかいないし、禁止にもしていないはずだ。 だって父さまも母さまも性別で言えば男で同性だ。 だから絶対にそんな事はありえない。 こんな話聞いたら父さまはまた怒り狂うんだろうなぁ…。 まったくいつまで白き竜にこだわるんだろう。 白き竜のにしてわざわざ自分たちが生きにくい世界にしなくてもいいのに。 僕は男たちの背中にむかってアッカンベーと舌を出した。
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