碧の匣

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私は幼い頃から悪夢に魘されていた。同じ内容の悪夢に。何度も、何度も。 最初にその夢を見たのは、五歳の誕生日の夜のことだったか。昔のことなので、大学生となった今ではよく覚えてはいない。 その日私は、科学者である父以外の家族────母と、私とお父さん方の父母とでハワイへの旅行に出掛けていた。父は科学者で、なんでも脳科学の研究をしているらしい。よく、「人は体に魂が宿るのか、それとも魂を身体が覆っているのか。 …………ナンセンスだね。人は、魂は、脳から生まれたのだよ」だとか。 全くもって理解し難くて、それこそナンセンスだと思うのだが、異議を唱えると執拗いので、黙って聞き流すのが親子付き合いのコツだ。 そんな感じで父は脳みそにゾッコンで、研究室にこもりっぱなし。家族旅行にも、研究を理由に日ノ本の湿気た研究室に閉じこもっている有様で、自分の父のことながら、正気の沙汰とは思えなかった。狭い部屋で脳みそと二人きり、だなんて私はまっぴら御免だ。 母も半ば呆れていて、あの人が私と結婚したのか、脳と結婚したのか、私には判別つかない、なんて言ってたっけ。脳みそにはお熱で、私たち家族は放りっぱなし。そんな父だった。 …………閑話休題。 その悪夢を見始めた日────即ち、ハワイ行きの飛行機に乗った私は無邪気に機内ではしゃいだ。当然といえば当然で、空を飛ぶなんて体験はお母さんの抱っこくらいで、窓から見える初めての空の世界。そして、俯瞰的に見る地上の暮らし。クラスメイトの子が、死んだらお空の世界に行く、なんて言っていたけれど、空には何も無くて、ただただ気持ちいい蒼空が遥か彼方まで続いていた。 空があまりにも綺麗ではしゃいでいたら、母に叱られたのをよく覚えている。そして、はしゃぎ疲れた飛行機での晩の事だった。
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