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人が多く行き交う駅近くは、様々な色が方々から放たれていて、どの人がどの色なのかが見分けつかなくもなるのだけど、そのカラフルな色だけは、すぐに誰のものか分かる。
「あ、直江さん……!」
わたしは跳び上がらんばかりの嬉しさで彼に呼びかけた。
しかし、彼は一人ではなかったのだ。
「あ………」
わたしは上げかけていた右手を引き戻し、虹色の向こうに揺れる栗色のセミロングヘアに釘づけになってしまう。
綺麗な、いかにも大人の女性といった雰囲気の女性だ。
その女性は直江さんの腕に自分の腕をからませ、親しげに何やら話しかけている。
直江さんもその手を当たり前のように受け入れていて、あの優しい笑顔で女性の話に耳を傾けていて……それはどこをどう見ても、恋人同士にしか見えなかった。
二人とも仕事帰りのような服装だったが、その親密な距離はプライベート感満載で。
わたしの足をすくませるには、充分過ぎる光景だった。
そして、思わず目を逸らし俯いたわたしの耳に届いてきたセリフは、強烈な一撃を与えてきたのだった。
「それじゃ、今日は弘也の部屋に泊まってもいいのね?」
もう何度もそうしてるかのような気安い口調。
そして直江さんの「俺は最初からそのつもりだったけど?」という、全面的な歓迎の態度。
―――これはもう、決まりだろう。
わたしは俯いたまま直江さんに見つからないようにバス停に身を隠した。
偶然の出会いを喜んだ自分に情けなくなりながら。
もう二人の会話をそれ以上聞きたくなくて急いで耳を塞ぐと、聞こえる音はぼんやりと幕を張り、曖昧に遮断してくれた。
けれど、わたしの気持ちを断ち切るのは少し時間がかかるかもしれないなと、あの鮮やかな虹色を思い浮かべながらそんなことを考えていた……
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