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それから二週間、直江さんは店に姿を見せなかった。
直江さんが店に来るようになってから数ヵ月、こんなにも長い時間会えなかったことははじめてだった。
店でしか顔をあわせず、他の場所で会ったのはあの夜だけ。
互いの連絡先も知らず、もしも直江さんが店に通うのをやめれば、もしもわたしが転職すれば、それだけで二人の糸は断たれてしまうのだと、今さらながらにその儚さを思い知る。
ここ最近直江さんの来店がないことに、スタッフの残念がる声も聞かれるようになってきたが、彼女らの口振りはわたしの心情よりも遥かに軽妙で、それが恋愛の境界線を越えてるか否かの違いなのだと感じた。
一人、例の同僚だけは、他のスタッフ達と若干温度は違っているようにも見えたが、直江さんと彼女の姿を見かけた今となれば、もうどうでもいいことにも思えた。
その同僚のまとっている色は紫だった。
紫は、わたしの経験上、”疲労感” とか ”落ち着かない””ストレス” というイメージだ。
それが小さかったり丸みのある形ならまだ良いが、大きくなったり刺々しさを帯びてくると、一旦休息を取った方がいい。
もし近しい間柄の人でそういった現象を見かけたときは、わたしはなるべくその人がリフレッシュできそうな話題を投げかけるよう心がけていた。
もちろん、色のことは伏せながら。
最近はオーラとかスピリチュアルな面も市民権を得てきたのかもしれないが、わたしのそれはオーラともまた違っているし、何より、実の母でさえ気味悪がっていたことを他人に打ち明けられるはずもなかったのだ。
それにしても、もし彼女の色がもっと大きく歪になっていったら、わたしはどう接するべきなのだろう。
おそらく直江さんのことでそうなってる彼女に、まさか直江さんには素敵な彼女がいるんだよなんて言えるわけもないし……
そうやって一人悶々と悩みはじめていたとある日曜日の夜。
夜シフトだったわたしは閉店作業を終えたバイトさん達を先に帰らせて、本社に送る書類を作成した後、戸締り確認をしてから裏口を出た。
いつもは社員が数名いるのだけど、日曜の夜は一人で閉めることも珍しくはない。
バス停までは徒歩一分。
もう目を瞑ってでも辿りつけそうな道のりを、仕事終わりの充足感を手土産に歩いていた。
すると、裏口から通りに出たところで、
「こんばんは、雪村さん」
まっすぐに名前を呼ばれたのだった。
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