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「それで……これを雪村さんに渡したくて」
直江さんがそう言いながらわたしに差し出したのは、小さな虹のマグネットだった。
「出張に行ってたのが虹がよく出ることで有名な都市だったんだよ。そこで虹を見られると幸せになれるってジンクスもあるらしくて、虹が出たら写真を撮って雪村さんに見せようとトライしてみたんだけど、残念ながら出てくれなくてね……だから、これはその代わり。雪村さん、虹色が好きなんだよね?」
優しく優しく、雨あがりの虹のように優しく話しかけてくれる直江さん。
わたしの手のひらにそっと乗せてくれた小さな虹は六色で、今の直江さんの虹と同じ数だった。
はじめて店で会った時に一度だけ話したことを、こんなにもさりげなく形にされて、感激しない方がおかしい。
わたしは、ここ最近の不安な心が隅から隅まで塗り替えられたように、胸が熱くなった。
「すぐに渡したくて急いだから、袋とか用意できなくて悪いんだけど……」
ごめんねと謝る直江さんに、わたしはぶんぶんと大きく手を振って止めた。
「そんなこと!……出張から帰ったばかりなのに、わざわざ持って来てくださるなんて……」
「だって雪村さんに早く渡したかったし」
にこにこ話す直江さんの虹色が、ふわりと大きく揺れて、紫が消えた。
出張帰りの直江さんに足を運ばせて申し訳なかったなと思ったけれど、紫がなくなったのなら、疲労感も薄まったのだろうか。
もしそうなら良かった。
素直にそう思いつつも、どうして直江さんがわたしにそこまでしてくれるのかが分からない。
わたしの頭の中では、またあの光景がよぎるからだ。
直江さんと彼女の仲睦まじく寄り添う姿。
すると、まるで心臓を鷲掴みにされたような攻撃的な痛さが襲ってきて、わたしは平生を維持することができなかった。
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