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直江さんの首もとに並んでる色達にも、何も変化は起きていない。
だからこれは、本当にごく自然とこぼれたものだろう。
「え……?」
問い返したわたしに、直江さんは柔和な笑顔のままにもう一度告げる。
「俺は、雪村さんが好きなんだ。だから、誤解が解けてよかったよ」
それは、わたしが知る中で最もナチュラルな告白だった。
そしてわたし達の関係が前に進むための、きっかけのセリフになったことに間違いはないだろう。
ついさっきまでの憂いが、一瞬にして吹き飛んでしまった。
その代わりに胸に宿った驚きは、”嬉しい” という感情を見失ってしまうほどに、わたしに、ただただどうしようもなく直江さんを凝視させた。
「ええと……雪村さん?ちゃんと意味が通じてるかな?」
直江さんの戸惑いは、つまりさっきのセリフが無意識に吐いてしまったものではなく、意図してそう口にしたものだったという証で……
わたしはもう、あんなに気にしていた直江さんの色がどうなっているかなんて気にもできないくらいに、胸が高鳴っていた。
事実、溢れてきた涙のせいで視界は潤んでしまい、目に映る景色は曖昧に溶けていく……
こくん、と頷いたわたしは、
「わたしも、好きです………」
そう返すのが精いっぱいだった。
急に泣き出したわたしを周囲の視線から隠すように、直江さんが表通りに背を向けて盾になってくれる。
俯いて嬉し涙が止まるのを待っていたわたしの目に入ったのは、手の中の小さなマグネットの虹だった。
こうして、この夜から、わたしと直江さんは恋人同士になったのである。
けれど、思ってもいなかった展開は、わたしから冷静さを奪っていたのだろう。
いつもなら、もしかしたら違和感を覚えたかもしれないあることに、まったく気付くことがなかったのだから。
それが違和感としてわたしの前に姿を現すのは、もう少し、時間が経ってからのことだった………
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