虹色の彼

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「ご心配おかけして申し訳ありません。この通り、元気です」 体を起こし、両手で拳を握って元気アピールをする。 するとその様子が面白かったのか、彼はフッと声に出して笑っていた。 「楽しい人ですね。……雪村さん?」 彼はネームプレートにちらりと視線を流し、またわたしを見つめる。 人懐っこい笑顔は、なんだかこちらまで明るい気分にさせてくれるようなエネルギッシュさがあった。 「はい、雪村です。あの、それでは、お決まりになりましたらお呼びくださいませ」 危うく、その笑顔ととりまくに気持ちを攫われてしまいそうになり、わたしは慌てて仕事用のお決まりフレーズを述べて退散したのだった。 カウンターに戻る際も、彼の放つ様々なが視界の端に入ってきて、わたしを落ち着かなくさせていた……… その後、彼のオーダーは別のスタッフが聞きにいき、わたしは接客や作業しながらも、優しく浮かんでいるをこっそりと観察していた。 彼は他のスタッフにもすこぶる愛想がよく、近くのテーブルで乳児の泣き声が大きくなった時もそのに変化はなかった。他の人だったら、表には出さないでも、多少の形は変わったりするものなのに。 彼は仕事なのか何枚かの書類をファイルから出して目を通していたが、その佇まいも穏やかで柔らかだった。 一貫して、安定している。 ここまでざわめかないは、はじめてかもしれない。 そんな一連の様子から察するに、この人はとてもいい人なのだと強く感じた。 そして複数のを持っているのは、彼の感情が非常に良いバランスを保っているせいかもしれないなと、わたしなりの解釈が生まれようとしていた。 まだ数十分という短い観察時間ではあるが、この説は結構有力な気がしていた。
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