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「お待たせいたしました、ブレンドコーヒーと野菜サンドです」
料理をサーブしたのはわたしだ。
こっそり彼を観察しながら、料理のタイミングも窺っていたのだ。
どうしても彼にもう一度接してみたくて。その虹色を、近くで見てみたくて。
「おいしそうだな。実はランチを食べ損なってたんだ」
「そうでしたか。あ、お飲み物はどちらに?」
何か作業をされてるお客様の場合、その邪魔にならないようにと、飲み物の置き場所は予め確認しているのだ。
彼は「そこでいいですよ」とわたし寄りの位置を指してくれた。
「かしこまりました」
「雨、やみませんね……」
わたしがカップをテーブルに置いたとほぼ同時に、彼が窓を見上げながら呟いた。
敬語だったのだから、それはひとり言ではなく、わたしへの言葉かけだったのだろう。
少し前まで広がっていた青空は、今ではすっかり灰色に着替えている。
暗く、陰鬱な気配を漂わせて。
わたしは沈んだ調子の声で、
「さっきまで晴れてたのに、真っ暗ですね……」
と同意を込めて返事したが、彼は窓から振り向くと、ニッコリ微笑んだ。
「でも俺、暗い色も結構好きなんですよ」
「そうなんですか?」
本人はこんなにカラフルな色をまとっているのに?
内心でクスリと笑う。
そんなこと知る由もない彼には、伝えるわけにもいかないのだけど。
でも確かに、彼の身につけているものはダークな色が多いようだ。
それはビジネスマンとしての品位を保つためにも思えたが、きっとそれだけではないのだろう。
「ええ。黒とか、好きですよ。雪村さんは?」
「はい?」
「好きな色。何色がお好きですか?」
唐突に名前を呼ばれ、ドキリとしたわたしは、頬に熱いものが走ったように感じた。
「……ああ、色、ですね?わたしの好きな色は………」
質問を理解したものの、とっさには具体的な色が出てこない。
というのも、この特異体質ゆえ、その色その色に思うことがあったし、好印象もあれば、その逆もあったからだ。
何と答えようか思い巡らせていると、目の前に広がる虹色が、まるでわたしに訴えかけているように見えた。
「――――虹色」
「え?」
「虹色が、好きです」
彼は、自分が虹色をまとっているなんて知らないのだから、わたしの答えはトンチンカンにも聞こえたことだろう。
けれど優しい人だから、笑ったりはしなかった。
「虹色ですか……」
しみじみと言ったかと思えば、
「そんな風に答える人、はじめて会いました」
ぱあっと満面に咲いた笑顔に呼応して、彼の虹もふわっと広がった。
それはまるで、曇天の窓に掛かった虹色のカーテンのようだった。
それが、わたしと彼の出会いだった。
一生忘れることのない、大切な、人生を大きく変える出会いだったのだ。
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