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一、
まだ体に馴染まない詰襟の肩は、一回り大きい。
泣かないよう噛み締めた唇が震えていた。細い眉間には皺が寄り、伏せがちの瞼は時折細かな瞬きを繰り返す。隙間なく生えた長い睫毛には癖がなく、庇のように視界を遮っていた。
よく焼けた肌、瑞々しい頬の線。あどけなさは、まだそこかしこに散らばって私の目を惹きつけた。
元気で、と告げた時、はっと顔を上げてまっすぐに結ばれた口元を見せた。でも何も言い返さず、手も振り返さない。
ただ、坂の下で最後に振り向いた私を、一度だけ呼んだ気がした。
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