冷たいひと

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夏はね、空は青くて、お日様の光が眩しくて、上着なんかいらないくらい暖かいんだ。木の葉っぱは鮮やかな緑色で、世界に色が溢れて、生き物たちはこれでもかっていうくらい元気に動き回るんだ。まぁ僕は葉っぱの緑色っていうのは実際には見たことがないんだけどね、とリクは言って、ほうっとため息をついた。 「昔の人はいいなぁ。その頃人間は、80歳まで生きることが出来たんだって。お日様の光が、人間を元気にしていたんだね」 今の世界では、リク達が太陽の光を目にすることが出来るのは一年間でたった一日、夏至の日だけだ。その日の午前中だけ、太陽は雲の合間から姿を現してこの世界を照らしてくれる。だから、夏至の日にはみんな仕事を放り出して、家の外に座り目を瞑って全身にお日様の光を浴びるのだ。 リクは、お日様の光の穏やかな暖かさを思い出して幸せそうに目を瞑った。そして、「もうすぐ夏至の日が来るね」と、幸せそうにつぶやいた。
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