11人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の夜、いつもであれば夜には空っぽの筈のリクとシロの待ち合わせ場所にはシロの姿があった。例の倒れた木の上に、膝に両手を置いてお行儀よく座っている。
そのままずっと、座り続けて、座り続けて。やがて周囲がほんのりと明るくなり始めた。お日様が出てきたのだ。
お日様がやがてどんどん地平線から空に上り、やがて、シロの身体を照らし始めた。黄金の光がシロを照らし、やがてその体はどんどんと輪郭を無くして行った。ゆっくりと透けていくその体を、お日様の光がそっと通り抜けた。
後には何も、残らなかった。
もしも、シロの作った雪うさぎに心があったなら、雪うさぎはシロのために涙を零したかもしれない。でも、雪うさぎはただの雪であったので、実際には誰も、シロのために涙を流してくれるものはいなかった。
次の日、リクはご馳走の残りを大事に抱えて、シロに会いに行った。
いつもの待ち合わせ場所にはでも、シロの姿はなかった。戸惑って辺りを見回すリクの目に入ったのは、溶けかかった雪うさぎと、いつもシロが座っていた場所の足元に、ちょこんと顔を出した、鮮やかな緑色の新芽だった。
リクは驚いて、抱えていた荷物を取り落とし、踵を返して村の方に駆け出した。
ーーー完ーーー
最初のコメントを投稿しよう!