冷たいひと

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リクが「それ」に出会ったのは、村から少し離れた森の入り口で薪を拾っていた時だった。 「それ」は倒れた木の上に、お行儀よくひっそりと座っていた。リクは少し離れた場所から「それ」をしげしげと眺めた。見た目は今までリクが見てきたどんな人とも違ったけれど、リクは何となく「それ」が寂しがって話し相手を探しているような気がした。 恐る恐る「こんにちは」と声をかけると、それはゆらり、とリクに顔を向けて、やがてこくり、と頷いた。今のは挨拶だな、とリクは思う。挨拶が出来るっていうことは、言葉が通じるっていうことだ。リクは少し考えて言った。「僕はリクっていうんだよ。君に名前はあるの?」 「それ」は名前って何?と言う風にゆっくりと首を傾げた。リクは愉快になった。こんな風にリクの話をゆっくり聞いてくれる人は周りには居ない。 「名前がないんだね。じゃあ僕が名前をあげる。そうだな、真っ白い服を着ているからシロなんてどうかな」 「それ」はしばらく考える素振りを見せて、やがてまたこくり、と頷いた。「気に入ったんだね」リクは嬉しくなって笑った。
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