【会社員のバター】

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 早朝からオフィスに謝罪の声が響き渡る。 「すみません。すみません」 電話越しの取引先にしきりに謝っている色白のモヤシは僕だ。今度のモヤシは若くないが。 「一体どうしたら発注間違えられるんですか?あなたのせいでこっちは大迷惑ですよ」 煽り口調で僕を責める。先方はかなりお怒りのようだ。 「大変ご迷惑おかけして申し訳ありません。必ず責任を取らせていただきます」 と頭を下げて言うと 「責任取るのは当たり前だろう!馬鹿野郎が!」と言い放たれ電話を切られた。 え?いや、そりゃ発注間違えた僕が悪いけどさ。社会人として馬鹿野郎は無いだろう。馬鹿野郎は。 急に罵声を浴びせられ呆然と立ち尽くしていると、事務の女の子達が僕を見てクスクス笑っている。同期たちは僕と関わりたくないのか、こっちを見ようとすらしない。ご覧の通り僕は職場で孤立している。僕が職場で人と話す時は事務的な内容しか許されていない。世間話なんてしてみようものなら皆に集中的にタスクを課される。これもやって。そんなに暇ならこれもやって下さい。あ、やっぱりこれも追加で。 みたいに。事務の子達はまだ愉しそうに笑っている。 「おう近藤。大丈夫か。」 振り返ると真っ白な歯を見せて笑っている上司が立っている。何か企んでいる。そんな笑顔だ。 と次の瞬間僕はヘッドロックされるような形で上司の腕に頭が収まった。 「そう落ち込むなや。仕事ってのはミスしてなんぼだからな。そうだ、今夜は皆で飲もう。近藤の慰労会といこうじゃないか」 とわざとらしく思い付いたように言った。 その瞬間、会社の空気が凍り付き、皆の動きが魔法をかけられたようにピタッと止まった。 「お気持ち嬉しいんですが、今日は予定があっ て…すみません」 僕は真っ青になって許しを請うたが 「お前に予定も何もないだろうガハハ」 と返されあっさり撃沈した。 「お前らも当然来るよな?」 大きな声で上司が言うと、さっきまで僕を笑っていた事務の子達や同期が魔法から解かれて、ビクッと痙攣し 「はい…」と揃って言った。 「そうかそうか!みんな早めに仕事終わらせとけよガハハ」 上司はご満悦のようだ。慰労会ってのは名目にきまってる。この人は何かあれば飲み会をしたがる性なのだ。今日は特についてないな。僕は大きなため息をついてデスクに戻った。
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