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中に入ると店主と思われるおじさんが一人いた。白髪だらけで髪はボサボサ、目は開いてるのか閉じているのか不明で、ヨレヨレな白衣のような物を着ていながら、ヤシの木柄のビーチサンダルを履いている。多分日本で一番ワッフルが似合わないおじさんだ。
「いらっしゃい。好きなとこ座りな」
低い声でおじさんは言った。
僕は一番端のカウンター席に腰掛けた。店内は薄暗く肌寒い。カウンター席が店の大部分を占める大きさで、独りでに動く空調が、不気味な空気を漂せていてなんだか重苦しい。調理器具が入ってるであろう棚の上に置かれた招き猫がこちらをじっと見つめてくる。窓は2つあるが、どちらも空いておらず、ところどころひびが入っている。僕のほかに客は見当たらない。キョロキョロしている僕におじさんは
「ワッフル食いに来たんだろ」
とどこか嬉しそうに聞いてきた。
「あ、そうです。お願いします」
と僕が言うと
「そう固くなるなって」
とおじさんは笑いながら厨房に行った。
なんだか不思議な人だな。ワッフルができるまで仕事のメールを返して待とうと思いスマホを開いた。酔いのせいで上手く文字が打てない。昼間にお叱りを受けた取引先に長々とした謝罪文を何とか書き切った。一段落し休憩しているとおじさんが厨房から出てきて
「出来たよ。星空ワッフルだ。生地に蜂蜜が練り込んであるからそのまま何も付けずに食べな」
と言って端っこに座る僕の席の前に真っ白な皿が置いた。皿を置かれた瞬間にフワッと豊満な香りが僕を包んだ。皿を覗けば質素ながらも贅沢な衣を羽織ったワッフルが二つある。思わず生唾を飲み込んだ。これは旨そうだ。僕はナイフでゆっくりワッフルを切り裂きフォークを口に運んだ。その瞬間ビビッと背中に何かが走った。細かく手が震える。酔いなんて宇宙のどこかに吹っ飛んだ。
「うまい…!!」思わず声に出た。
こんなワッフルを食べたのは初めてだった。
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