1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

「ダメっすよ先パイ、酒飲んでるんスから……」 「あぁん? ……ったくしゃ〜ねえなぁ、じゃあタクシー使うかぁ」 「《代行》で良いんじゃないスか?」  そう言って後輩のタクは電話し始めた。  新年会の四次会が終わり、時刻はすでに明け方近くになっている。  生ビール三杯にハイボール五杯、  カクテル六杯、  それにポン酒とウィスキーのちゃんぽん。  それを二ダース、だ。  俺もタクも、ここまで参加した奴はみんなべろんべろんに酔っ払っていた。自分の車も代わりに運転してくれる《運転代行》サービスなら、商店街にマイカーを置き去りにして行く心配もない。俺は笑った。 「禁酒法の時代に生まれなくてホント良かったなぁ!」 「ホントっスね」 「タク、お前明日の花見も来るんだろ?」 「ヤ、俺明日と明後日早番だから。今日も大分飲んだし、パスします」 「はぁ?? 来ないつもり??」  酔っ払った勢いで、俺は凄んだ。タクは慌てて顔の前で手を振った。 「スィアセン、カミさんがうるさいんスよ。勘弁してください……」 「っるセェ! 人生と花見にパスはねーんだよ!」 「ホントスィァッセン! 代わりの奴、参加させますから!」 「代わりだぁ??」 「はい」  タクは真顔で頷いた。コイツは何杯飲んでも酔わない奴だった。 「知らないんスか? 《花見代行》サービスっスよ。最近地方(こっち)でも始まってて。俺の代わりに、酒めっっちゃ強い奴参加させますンで」  ぐわんぐわんと揺れる脳みそに、聞きなれない単語が飛び込んで来る。瞬間、俺は頷いていた。 「バッキャロー、知ってんよそんくらい。アレだろ? 《花見代行》サービスだろ?」  俺も使ったことあるし。そう吐き捨てると、タクは長い後ろ髪を掻きあげて苦笑いをしていた。本当は何も知らなかった。だけどなんとなく、知ったかぶりをしてしまった。 「今日はもう、早く帰って寝て下さい。と言っても、もう朝スけど……」 「何言ってんだ。もう寝てるよ!」  しばらく待っていると、代行車がやってきた。扉が閉まる時、俺はタクに喚いた。 「《就寝代行》の奴が、今俺の代わりに寝てんだよ!」 「ハハッ……」  ……それから朝まで記憶がない。気が付いたら、俺は玄関先で、スーツ姿のまま倒れ込んでいた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!