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マッシュポテトは、康夫が最も愛し、かつ最も恐れる食品だった。
「な、なんで、マッシュポテトが」
「え?そこにありましたけど。って言うか尾嵜さん、唇大丈夫ですか?」
杏の問い掛けに応答することはなかった。
見逃していた。
今まで見逃していた。
サラダボウルの陰に隠れて、見つけられなかったらしい。
じゃがバター同様、マッシュポテトは体内で圧倒的存在感を示してくる。
じゃがいも自体はそれほど重くはない。
だが、牛乳、バター、生クリームなどと合わさることによって、彼らは禁断の扉を開けてしまう。
しまった。
完全に想定外だった。
本来であればここで断るのが定石だ。
どうする。
しかし神の悪戯か、杏はそこそこな美人だ。
ここで彼女の気持ちを無下にして、この先発展する可能性を断つというのもなかなか勿体ない話だと康夫は思った。
「じゃ、じゃあ、頂こうかな」
康夫はひとまず、1番安パイな甘エビを取ることにした。
もしかしたら、「この中からどれかどうぞ」
そんなニュアンスである可能性があり、そちらに賭けたかったからだ。
「いえいえ、そんなこと言わずにどうぞ」
押し付けがましさなど全くない。
だがこの娘、全て寄こしよったわ。
康夫は泣く泣く、それらの処理を担当することとなった。
これはかなりまずい。
これまで戦略的に食べ進めてきたのに、ここへきて全ての歯車が狂いそうになっている。
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