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胃もだいぶ下がってきた感覚がある。
それよりも何故、コース料理に重めのジャガイモ料理が2品もあったのか。
これ以上は危険だ。
康夫はこれより先、何がきても口にしない
そう固く己に誓った。
「わあ、尾嵜さん。全部食べてくれたんですね。ありがとうございます」
「い、いや。別にこのくらい」
自分の渡したものを受け取ってもらえて、杏は異常すぎるほど喜んでいた。
「尾嵜さん、尾嵜さん、きましたよ」
杏が目をキラキラさせながら見つめていたその先には、ガトーショコラを持った店員がいた。
だめだ。
なんてタイミングで持ってきやがるんだ。
「坂根さん?」
「はい?」
「いる?ガトーショコラ」
「いえいえ!そんな悪いです」
「いや、さっきいろいろもらっちゃったからさ」
「いいえ!だめです先輩」
頑なに受け取ろうとしない杏は、フォークでガトーショコラを食べやすい大きさに切ると、康夫の口まで持っていった。
「出されたものはちゃんと食べないとだめです」
どの口が言ってるんだ。
顔に出ていないので気づかなかったが、杏は結構酒を飲んでいた。
そのせいもあり、割と大胆なこともしてきた。
後で気づいたが、康夫は少し心拍数が上がった気がした。
結局、ガトーショコラも、全て杏に食べさせてもらい完食した。
「ついでに私のもどうぞ」
杏の暴走は止まらなかった。
そのまま2つ目も完食する羽目となった。
口溶けは滑らか。
ところどころ顔を出すザラメがいい演出をしてくれた。
だが、康夫にとってこれは、罪深きことであった。
最初から計算を重ねたのに、一瞬の判断の迷いで。
「せーんぱい。尾嵜さーん」
宴もたけなわ、気分上々で店から退散しようとしていたところで、康夫を呼ぶ声がした。
「楽しかったですね」
えへへと笑顔を見せて、康夫の肩を叩いた。
「そ、そうだね」
同調しきれないことに、申し訳なさを感じつつも、そのまま全体的にあっさりと解散となった。
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