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「そうだ。あの時、判断を間違えなければ」
康夫は当時を振り返り、体重計の上で拳を握りしめる。
その握り拳からは、紅色の涙が滴った。
悔やんでも悔やみきれない。
犯した罪は消すことはできない。
こうして数字となって、今も残っているのだから。
「くそっくそっくそ」
康夫は拳で壁を叩いた。
力の限り。壁が薄ら赤くなっていく。
そのとき、体重計に乗せた両足の間、踵のあたりで何かが動いた。
そして、驚くことに体重計は79キロを示していた。
康夫は目を丸くして、2度見した。
さっきまでの数値は?
そして何が動いた?
康夫が振り返ると、寝起きで髪がぼさぼさの杏が子供っぽい笑顔をして立っていた。
「もしかして今、体重計に足掛けてた?」
杏は自らの足で、康夫が測定していた体重計に荷重を掛けていたのだ。
「えへ。やっくん、鼻くそでてるよ」
杏は満面の笑みで言った。
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