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「79」
康夫はか細く言った。
大台には乗らなかった。
康夫は安心などしていなかった。
これは由々しき事態である。
なぜならば、康夫にとってここが境目だからである。
身長178センチということは、BMI的に考えて、80キロを超えると肥満ということになってしまうのだ。
後1キロ。
気にし始めてからは、気を使うようにしているものの、康夫にとって、常にロシアンルーレットをしているような感覚であった。
「おい。やめろ。ばかな。どうして」
康夫は目を見開いた。
さっきまで79と表示されていた数字が、84まで上昇していた。
いよいよ体重計が壊れたか。
現実を疑うように、まずは体重計を疑った。
灯油用のポリタンクに、水を10L量りとり、体重計に乗せた。
「ありえない」
体重計は10キロを示した。
すなわち、先ほどの数字は正しかったということだ。
「おい、待てよ。違うだろ」
よくわからないことを言いながら、体重計に乗り直す康夫。
「こいつ、狂ってやがる」
お手上げだというように目を手で覆った。
体重計は、87キロを示していた。
もう1度、水の入ったポリタンクを乗せてみたが変わらず10キロだった。
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